16 黒熊
無事に〈一角猪の角〉を短杖に加工してもらい、ランクを上げるためDランクの依頼を片付けていたが、一向に上がらなかった。
尋ねてみるとここではCランク認定はしていないという。
認定は大都市―ここから一番近いのは〈スォーロ〉のギルドで行っているらしい。
ただし、認定されるには試験をこなさなければならず、試験を受けるにはCランク試験許可書が必要で、許可書はこのギルドでも発行しているという。
どうすれば発行されるのか聞けば、C級モンスターの〈ソウル〉を持ってくればいい、ただし中品質以上とのこと。
ここの近場のC級モンスターは〈ツディーヌの森〉の奥地に住む〈フォレストベア〉だけだという。
そんなわけで〈マナポーション〉を買い込み、また〈ツディーヌの森〉へ来ているだが……
―――
「《ゲイザー》。品質はっと……また低品質か」
倒れた濃緑の熊を回収したが、目当ての物は出なかった。
〈ツディーヌの森〉に篭ってもう10日、一向に中品質以上の〈ソウル:フォレストベア〉がでない。
最初の3日間は、〈フォレストベア〉を狩る前に潰して置かなければいけない懸念があり〈キャットゴーレム〉で手段を手に入れたので、〈フォレストボア〉で検証していた。
予想通り魔法で倒すと〈ソウル〉は悪くなるようだ。
〈CG・グリーン〉だけで倒した場合中品質以上の〈ソウル:フォレストボア〉が確認できたが、《ミスト》系併用で低品質以下、攻撃魔法を使用すると一切出なかった。
マナが凝ってモンスターが生じる以上〈ソウル〉はマナ的物質で、魔法はそれに直接的な影響を与えてしまうのかもしれない。
もう一つ判った事がある、マナを沢山宿している個体ほどドロップしたときは品質が良くなるのだ。
沢山〈フォレストボア〉を探すのに《リンクスアイズ》を使用していて気が付いた。
《リンクスアイズ》は《ファイブヴァーチャーズ》、《クリエイトキャットゴーレム》と共に夕食を取ってから自室でMPが無くなるまで使用し続けて熟練度を上げていた。
その結果、遮蔽されていてもマナも見えるようになり、そこまでの距離やマナの性質からそれが何かある程度判断できるほどになったのだ。
無論、消費MPも少し軽減されている。
これには嬉しいおまけも付いた。
パッシブスキル《MP回復量上昇》が付いたのである、熟練度取得条件がMP0にしてから自然回復だった。
常にMPに余裕を持って行動してたのが取得の妨げになっていたようだ。
閑話休題。
つまり〈CG・グリーン〉だけでマナを多く宿した〈フォレストベア〉を倒せば良いと結論付けた。
しかし、考えが甘かった。
流石に熊である、楽に倒せるわけが無い。
マナが多いほど強くなるので余計にである、しかも子供を連れている。
〈CG・グリーン〉だけだと火力不足で押し切られる。
《クリエイトキャットゴーレム》の熟練度はスキル使用時にはほんのわずかしか上昇しないため日課の効果はあまり無く、戦闘中だと効率よく上がるのだが人目あると使えないので、強化されるにはまだ足りない。
手を控える余裕は無く魔法で援護したが、出てきたのは最低品質の〈ソウル:フォレストベア〉。
前の例から《ミスト》系だけなら品質上がるはずと試してみたが、Vitが高いのか麻痺は効かず、眠りが1割弱、毒は2割ほどの成功率。
何とか倒して手に入ったのは低品質以下の物ばかりだった。
今倒したのも見えた範囲で一番マナが多い〈フォレストベア〉だったが、結果はごらんの有様だ。
まあ、頑張っていればレベルは上がるし《クリエイトキャットゴーレム》も強化される、事実最初の頃よりは楽に狩れる様になった。
食料は〈森林猪の肉塊〉も〈森林熊の肉塊〉も沢山あるし、《メイクウォータ》で水もOK、〈薬草〉や〈魔茸〉類で栄養もばっちり。
夜は木の上で寝て、危ない気配は察知して避けられる。
野生化しそうな気がしないでもないが、まだまだ大丈夫だ。
次の獲物を探して《リンクスアイズ》を起動する。
感知できるぎりぎりに強いマナを見つけた、性質からすると熊だ。
こいつを倒せば、中品質のを手に入れられるかもしれない。
他に視界には敵は見当たらない。
《リンクスアイズ》を切り、相手に察知されないよう気をつけて風下からそちらへ向かった。
なお、こういう行動を良くしている為かパッシブスキル《隠密》を手に入れていたりする。
〈斥候〉専用っぽく見えるが、職業はアクティブスキルのみの違いでパッシブスキルは共通なのかもしれない。
―――
最初はただの黒い岩に見えた。
だが、近づくにつれそれが生き物だと理解した。
体を丸めているが、立ち上がれば4~5mぐらいにはなるだろう、先ほど戦っていた〈フォレストベア〉の倍以上だ。
(しまったな。どうしよう…)
亜種の可能性は感じていた。
だが、〈フォレストボア〉の亜種が凶暴になって突進力が上がった以外あまり大差ない〈ユニコーンボア〉だったので甘く見すぎていたようだ。
のっそりと体を避けた先には食い散らかされた〈フォレストベア〉、この森の生態系の頂点に立つ存在なのだろう。
ここは退くのが上策と、気付かれないうちに離れようとしたが、不意に風向きが変わった。
「《クリエイトキャットゴーレム》!」
その黒熊がこちらを振り向いたのがはっきり見えた。
額に黄金色の円盤のようなものが付いていた。
「《リーフカッター》、《ヴァインウィップ》!」
〈CG・グリーン〉に指示を飛ばし、駆けてくる黒熊を攻撃させたが、絡め取ろうとする蔓は引きちぎられ、葉っぱは皮膚を薄く傷つけただけのようだ。
正面から〈CG・グリーン〉を向かわせると、腕を振り上げた。
「魔力の弾丸、敵を撃て《マナブレット》!」
顔面に当てると一瞬ひるんだ。
その隙に振り上げたのと反対の脇をすり抜けさせ、《ソーンクロー》と《リーフカッター》を叩き込ませるが引っ掻き傷程度、致命傷には程遠く、しかも見る間に治っていく。
それでも、近くの方を先に片付けようと思ったのだろう、黒熊は〈CG・グリーン〉の方を追いかけた。
「GAAAAAAAAAAA!!!」
このまま遠くまで誘導させる事も考えたが、遠すぎると指示が効かず直前の行動のままになるの木にぶつかるのがオチだろう。
時間を稼ぐため、回避を続けさせてるがこのままでは制限時間が過ぎて消えるだけである。
(何か方法は無いか。《マナブレット》であの程度なら《マナショック》でも大きな期待は出来ない。
《ファイブヴァーチャーズ》でもあの回復速度なら、それほど効果は望めないだろう。
《ミスト》系はそもそも無理だろう、〈フォレストベア〉ですらあまり効果なかったんだし。
《クリエイトキャットゴーレム》このまま強化されるまで粘るか?
いや、それまでもたないか…)
思わず天を仰いだ…そして、閃いた。
そのまま回避を続けさせる、再使用制限時間が終わったなら《リーフカッター》。
〈マナポーション〉を被り、頃合を見計らって木に登っていく。
回避させる集中が途切れたからか、黒熊の爪に捉えられ〈CG・グリーン〉は砕かれた。
ある程度の木を登ったところで、《魔力作操》によって小さな足場を一瞬作って登る方に切り替え、まだまだ登っていく。
登っていた木を叩き折った黒熊がこちらへ向けて吼えてくる。
〈マナポーション〉を振りかけながらどんどん登る、黒熊はもう点に見えた。
これが読みどおりに行かなければもう手は無い。
「《クリエイトキャットゴーレム》!」
ごぉっと風が渦巻き、青い猫が生じた。
背中には羽が生えている。
(勝った!)
自分を拾わせ〈コンパネ〉を開き、スキルを見る。
〈CG・スカイ〉、策にお誂え向きのものが合った。
〈マナポーション〉を被り、高度を下げ黒熊に近づく。
「《エアロカッター》!」
風が刃となり黒熊を襲うが、先ほどと同じく微々たるものだ。
それでも黒熊は怒り、吼えている。
手の届かない間合いを測りつつ、馬鹿にするように避ける。
一度体を沈め、ジャンプして来たが難なく回避する。
そうして目的の時間まで引き付けた。
《クリエイトキャットゴーレム》の再使用制限時間がまもなく終わる。
《リンクスアイズ》を使用し、黒熊を確認できるぎりぎりまで高度を上げる。
「《エアリアルチャージ》!」
上げきったところでまた薬でMPを回復させ、〈CG・スカイ〉から降り、スキルを使用させる。
スキル効果と重力で、先に落ちているオレを遥かに超える速度の流星が走る。
本能で危険を察知したのか黒熊が動くそぶりが見えたがもう遅い。
大きな地響きを立て、土煙が舞い上がる。
〈CG・スカイ〉のマナが消えたので、改めて《クリエイトキャットゴーレム》を使用し落ちていくこの身を拾わせる。
MPを回復させつつ様子を見ていると、土煙が晴れぼろぼろになった黒熊が現れた。
マナが消えてないので生きているのは判っていたが、もう一発必要だろう。
のろのろと逃げようとする黒熊を尻目に、もう一条の流星が走る。
今度は黒熊のマナも見えない。
(よし!……って再使用制限時間切れる前に使っちゃったよ?!)
〈マナポーション〉を被りつつ、地獄に落ちないよう、天国への階段を登る作業が始まった。
―――
今日も元気に〈フォレストベア〉を狩っています。
黒熊はどうしたかって?
きっちり回収しました、〈ソウル〉は出なかったけどね。
倒し方どうこうの前にLuc上げろって話だよね、あははは…はぁ。
でもレベル上がったし、もうすぐ《クリエイトキャットゴーレム》も次の段階に移行する。
そうすれば〈CG・グリーン〉だけで〈フォレストベア〉も倒せるようになるだろうさ。
〈CG・スカイ〉は封印中です、高いところはもうこりごり。
でも万が一に備えて丸太は集めしています、岩は《ゲイザー》効かなかったし。
それでは頑張っていこう!
―――
黒熊―〈フルムーンベア〉のドロップ品を見て、ギルドが阿鼻叫喚の渦に巻き込まれるのはもう少し先の話。




