12 ケイブゴブリン
〈ケイブゴブリン〉―〈街人〉の半分ぐらいの身長の、爪や牙に毒を持つ土色の肌をしたモンスター。
単体では〈グラスウルフ〉より少し強いくらいで、Eランクでも相手取る事は可能。
今回これがCランク依頼とされるのはその数のためである。
まず〈ケイブゴブリン・ルート〉というモンスターが発生する。
このモンスターは移動出来ないが、その周辺に〈ケイブゴブリン〉を生やす。
生えた〈ケイブゴブリン〉は〈ケイブゴブリン・ルート〉に獲物を届け、栄養をつけた〈ケイブゴブリン・ルート〉はまた〈ケイブゴブリン〉を生やす。
そうやって際限なく増えていく。
初期で見つける事が出来れば駆除は容易いが、今回の場合少しばかり遅かったようだ。
定期的に巡回依頼を出し、発見すれば即駆除していたのだが、前回の時完全に退治しきれていなかったのかもしれない。
洞窟外に〈ケイブゴブリン〉が居るという事は、洞窟内部の獲物が尽きてきたからだと考えられる。
ギルドの推測では、それだけの量の獲物から発生する〈ケイブゴブリン〉の数は最低でも50体。
洞窟は一本道で幅がそれほど広くないため少数精鋭が望ましい。
というような事を説明された。
あと、D、Eランクで今居る中で〈魔術士〉はオレ一人なので、出来れば参加して欲しいとのこと。
交渉し、報酬に色を付けることを確約させて参加を承諾した。
といっても、今のところスキル2つしか使えないんだけどな。
『新人訓練』で貰った《マナブレット》と、昨日買って覚えた《パラライズミスト》。
そういえば、今日買ってきたのはまだ使ってなかった。
出発は明日、夜明け前だからそれまでに覚えておこう。
今すぐ出発しないのは、その辺りは夜になると危険度が増大するかららしい。
他の人員も決まり、自己紹介をし、洞窟の地図を前に打ち合わせを済ませ、その場は解散となった。
―――
「もうそろそろだ、気を引き締めろよ」
「心配しなくても大丈夫だって。俺にまかしとけ」
森の中へ入って幾ばくか過ぎ、今回のパーティのリーダーを任されたDランク〈戦士〉のアルヴェタが注意を促す。
自分の背丈の倍近くある〈ポールアックス〉を肩に担いだ〈草人〉のクラッホが軽口を叩く。
彼が今回の作戦の要だが、正直不安だ。
同じように不安な視線を送っているのが〈地人〉で〈戦士〉のベムスだ。
他に2人いる。
〈祈祷士〉のシャスとモーラだ。
モーラはそんなクラッホを微笑ましそうに見ている。
一方、シャスは時折こちらに意味深な視線を投げかけてくる。
背中を嫌な汗が流れる。
森の奥で洞窟がぽっかりと口を開けていた。
周りに小さな影が動いている、〈ケイブゴブリン〉―5体ほどそこにいるようだ。
一旦止まり、顔を見合わせてうなずく。
〈祈祷士〉から強化魔法を受けると、一斉に駆け出した。
「魔力の弾丸、敵を撃て《マナブレット》」
気付かれる前に手前の1体に撃ち込み、棒立ちとなったそれにアルヴェタは肉薄し、斬り倒す。
残りの4体の内、1体は洞窟へ駆け出し、残りがこちらに向かってきた。
5対3、またたく間に片付けると音が聞こえてきた。
――ザッザッザッザッ――
「くるぞっ!」
「麻痺の霧よ、敵を包め《パラライズミスト》。眠りの霧よ、敵を包め《スリープミスト》」
洞窟の奥から土色の川のように湧き出し向かって来る〈ケイブゴブリン〉の先頭に向けて魔法を放つ。
湧き出た霧に包まれた〈ケイブゴブリン〉がばたばたと倒れ、その体で流れを妨げる。
倒れた仲間を乗り越えながら進もうとしてまごついているそこへクラッホが突っ込んだ。
「回して振り抜く《フルスイング》!」
強化されているのと相まってか、旋回範囲の敵が一撃でミンチになる。
空白地帯が生じたが、間を置かず後続に埋められていく。
クラッホに敵が殺到するが、薙ぎ払う。
スキルでないため一撃とは行かないが、アルヴェタがフォローに入り片付けていく。
ベムスは後衛に敵が行かないよう、脇を抜けてきたのを潰していく。
シャスとモーラが《ヒール》と《キュア》を使い前衛を回復させ、オレは味方を巻き込まないよう奥の方へ先ほどと同じ魔法を放ち圧力を減らす。
そして、再使用制限時間を過ぎたクラッホがまたスキルを使う。
まだまだ後から湧いて来て終わりは見えない。
体感で1時間近く、辺りが〈ケイブゴブリン〉の死体で埋め尽くされ、後続が湧き出さなくなった。
杖がマナ焼けを起こし援護が途切れ、一時押し切られそうにもなったが、何とか凌ぎ切った様だ。
「よし、もう一踏ん張りだぞ!」
アルヴェタが目の前の敵に止めを刺しながら発破をかける。
クラッホにもベムスにも最初のころの精彩は既に無い。
援護を《マナブレット》に変えて殲滅速度を上げ、ようやく片付くと前衛は疲れ果て膝から崩れ落ちた。
戦闘中援護を続けるために〈マナポーション〉をがぶ飲みしていたシャスとモーラは、今はもじもじしている。
オレは全身びしょ濡れだ、飲んだ方が回復量は多く手間もかからないのだが、体小さい分量を飲めないのでそうしたのだ。
まだ〈ケイブゴブリン・ルート〉を倒していないし、奥に残っているかもしれないが、とりあえず休憩することになった。
1人元気なオレが警戒に立ち、前衛は座り込んで〈アイテムポーチ〉から出した水筒から水を飲んでいる。
もじもじしていた女性陣は周囲の安全を確認してから、用を足しに木陰へと向かった。
口を開くのも億劫なのか、全員黙っている。
気を向けている洞窟からは、何も出てくる気配は無い。
死体は剥ぎ取れないほど損壊していた、《ゲイザー》ならアイテムドロップするかも知れないが使わないほうがいいだろう。
討伐証明部位―〈洞窟小鬼の耳〉だけ何とか取り、いくつか転がっていた宝石のような物も回収しておく。
残る部分はそのままにしておく、死体は時間が経つとマナに還元されて消えるのだ。
そうやって濃くなったマナでまた問題が起きるかもしれないが、それは後の話。
〈アイテムポーチ〉に入りきらない以上仕方が無い。
そうこうしてる内に女性陣が戻ってきた。
一息ついていた前衛陣も立ち上がり、洞窟の奥へと向かった。
2、3体の〈ケイブゴブリン〉が散発的に襲ってきたが難なく片付け、洞窟の最深部へとたどり着いた。
少し広くなっており、中心部に笠を頭に付けた人間大の〈ケイブゴブリン〉がいて、周辺を数体の〈ケイブゴブリン〉が取り巻いている。
あれが〈ケイブゴブリン・ルート〉だろう、足元が地面と一体化している。
初手で《パラライズミスト》を放つ。
先ほどの戦闘で熟練度が上がったからか、その場に居た〈ケイブゴブリン〉が全て倒れた。
ただ、〈ケイブゴブリン・ルート〉には効かなかったようで、攻撃された事に気付いて吼え出した。
吼える〈ケイブゴブリン・ルート〉は笠を振り回し胞子を撒き散らしている。
攻撃範囲に入らないよう気を付けて、前衛が痺れている〈ケイブゴブリン〉に止めを刺していく。
残るは〈ケイブゴブリン・ルート〉ただ1匹。
クラッホが胞子を吸わない様息を止めて突っ込み、長斧を叩き込む。
「なにっ?! ゲホッガハッ」
だが、少ししか傷つかなかった事に驚いた拍子に胞子を吸い込む。
シャスが《キュア》を飛ばすが、咳き込んでる隙に長斧を掴まれた。
武器をしっかり握って放さなかったため諸共壁に投げられる。
モーラが《ヒール》をかけ、アルヴェタとベムスが胞子を気にせず突っ込み、スキルを使う。
「この一撃に力を籠めん《パワースラッシュ》!」
「高みより振り下ろす、大地を砕かんほどに《アーススタンプ》!」
流石に大きく傷つき拉げるが、体を動かし胞子を撒き散らしながら腕を振る。
援護に《マナブレット》を撃ち込むと〈ケイブゴブリン・ルート〉は怒りの声を上げた。
善戦したが結局のところ5対1で勝ち目は無く、ぼろぼろになった〈ケイブゴブリン・ルート〉は根元から倒れた。
「よし、やったな。証明部位などを回収して少し休憩したら速やかに撤収するぞ」
「よし来た! ってそういやお前取るの上手いんだってな。見せてくんない?」
「出来るわけないだろう、こんなずたぼろの奴からなんて」
「おぅ?…それもそうか」
納得したようでクラッホは剥ぎ取りに向かっていく。
オレは目を下ろした。
―――
(マタ負ケタ。数デハ駄目ナノカ。ダガ奴ラハマタ見過ゴシタ。次ハ、まなヲ凝縮シテモット強イノヲ……
ゲフッ! 馬鹿ナ、気付カレタ?!
ガハッ! ……アア、死ニタクナイ……)
―――
「どうした、根っこに《マナブレット》なんて」
「ちょっと動いた気がしたし、万が一に備えてだよ」




