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狂気の証明  作者: 鷺岡 拳太郎
第1章

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第2話

 

 明彦は机の上に置かれたマイクのボタンを押す。

「診察番号503、503の方、診察室2にお入り下さい」

 このマイクは待合室に繋がっており、マイクに向かって喋った声は待合室に直接流れるようになっている。患者の診察を終えると医師は次の診察番号をそのマイクを介して待合室に告げ、そしてその診察番号の患者が入れ替わりに診察室の中に入って医師の診察を受ける。S病院ではそのような仕組みになっていた。

 ちょっとした時間の隙間を利用して、次の患者の問診票に目を通す。この病院に来院したのは初めての患者だった。患者の性別は女性。年齢は二十八歳。主な症状には「妄想」と書かれている。

 しばらくして、診察室のドアがコン、コンとノックされる。

 少しの間を挟んで、恐る恐るといった感じでドアが開かれた。

 一人の若い女性を挟むようにして、気の弱そうな中年の男女が立っていた。その中年の男女の顔はやけにやつれていて、目の下にはっきりとくまが浮かんでいる。何も知らない人が見れば、この中年の男女が患者で、その間にいる若い女性のほうが彼らの付き添いのように見えるだろう。ただし、明彦の手元にある問診票は、その若い女性の方こそが患者だと指し示していた。

「では、こちらの椅子にお座り下さい」

 明彦のデスクの前には丸椅子が二つ置かれている。看護師が奥からもう一個の椅子を持ち出してきて、その隣に置くと、彼らは音も立てずにその椅子に座った。

 その間、明彦は中央の若い女性の様子を観察していた。

 始めの第一印象は「まるで人形のようだ」というものだった。

 魂が込められていない空っぽの人形。目は明彦の後ろのどこかの虚空を見つめている。表情は一切無く、怖いくらいの無表情だった。顔色は白く、そのことも「人形」という感想に繋がっている。

 明彦は問診票に視線を戻す。

 患者の氏名欄には「相原亜由美」と書かれていた。

 それが、明彦と亜由美の出会いだった。

「ええと、相原亜由美さんですね」

 明彦は若い女性に話しかける。その視線は依然として明彦の後ろの虚空に向けられており、明彦の言葉に何の反応も示さなかった。何度か話しかけてみるがやはり女性は何も答えない。明彦は女性に話しかけるのを諦め、隣の中年男性に話しかける。

「あなたは、亜由美さんのお父様ですか?」

「……はい」

 となると、反対側に座る中年の女性は亜由美の母親なのだろう。

「書いていただいた問診票には症状として『妄想』とあるのですが、具体的にはどのような妄想でしょうか?」

「それは……」

 男性は泣きそうな顔をして言葉を濁す。

「この子の前では、ちょっと……」

「分かりました」

 このようなケースはままある。

 患者本人と意思疎通が図れない場合、患者を一旦診察室の外に出して、患者の親族から色々と事情を聞き出すことも多い。変に患者を刺激しないための処置だった。

 明彦は看護師に指示して、一度亜由美を外に出す。母親も亜由美に付き添って一緒に診察室の外に出ていった。狭い診察室は明彦と父親の二人だけになった。

「それで、亜由美さんの妄想とは、どのような妄想でしょうか?」

 明彦が男性に言葉を促すと、男性は重たい口を開いてぽつりぽつりとしゃべりだした。



挿絵(By みてみん)


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