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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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8/9

3−2 王子

 アルテュール様との仲を一切疑っていなそうな王と、憂いながらも複雑な心境がないまぜになっているお父様に見送られて、私はその男性について行くことになった。


 部屋から出ると、エルンスト卿がついてくる。王の誘いで城に来ることになったため、エルンスト卿はしっかりと迎えにきていた。


「どちらに?」

「アルテュール殿下にお会いすることになったのよ」

「あちらでございます」


 案内された部屋は客間ではなく、どうやら執務室のようだった。

 ノックがされて、扉が開く。まだ私はアルテュール様に会う心の準備ができていなかったが、その準備はいらないと言われているようだった。そんな気はしていたが、アルテュール様の部屋にエリサが当たり前にいるのだ。


「あれ、毒の聖女様?」

「客が来ると言ったよ」

「え、今日のことだったんですか? 私てっきり、明日のことだと思っていました。じゃあ、毒の加護をかけますね」


 エリサは私の前で、またも毒の加護をアルテュール様にかける。

 どういうことよ。私がアルテュール様を害すとでも?


 私がやってきて、エリサはわざわざそんな加護をかけるのだ。悪気などはないと言わんばかりに、はい終わりました、とにこやかにアルテュール様を見上げる。アルテュール様はそれに対して無表情ながらエリサを無言で見つめ、何事もないように私に向いた。


 私は、何を期待していたのだろう。王が何を言おうと、アルテュール様の意思が王と同じなわけではないのに。

 ああ、もう駄目だ。気持ちが悪くなってきた。私の方が限界だ。こんな扱いを、私はいつまで受けなければならないのか。どうして、私はこんな人のことで頭を悩ませなければならないのだろう。


 胸が苦しくとも、涙が流れそうになろうとも、彼らは何も思わず、私を傷付けて、何も感じない。

 今ここで、私は婚約者なのよ? と言っても、なんの説得力もないのだろう。エリサは私をアルテュール様の婚約者だと思ってもいない。アルテュール様も同じだ。三年ぶりに会った婚約者など、存在すら忘れていたのだろう。


 王に聞けば良かった。『アルテュール殿下は、わたくしとの婚約を破棄したいのでは?』


 アルテュール様から言われるより、ずっとマシだ。王であれば、仕方ないで済ませられる。

 アルテュール様から、婚約破棄を告げられたくない。私はきっと涙を我慢できず、醜い顔を晒すことになるだろう。今もう、その予感しかしない。


 急に私がやってきて、アルテュール様は面食らっただろう。王の命令でやってきたため、邪険にできないが、話すことなど何もない。ただ立ち上がって、私に視線を向けて、後ろに控えるエルンスト卿を確認する。


「ここに、護衛を連れてくることはないよ」

「……は?」


 想定していない話をされると、一瞬何のことかわからなくなる。私は王太子殿下相手にあるまじき、『は?』を口にしてしまった。アルテュール様は聞こえていなかったように、もう一度同じことを口にする。


「私の執務室に、護衛を入れる必要はない」

「――彼は、王から命じられた、わたくしの護衛ですが」


 癒しの聖女に護衛がないのに、私に護衛がついているのは、私が毒の聖女だからだ。毒の聖女が戦争に駆り出されることを考えれば、誰だって思い付く。誘拐して、自分のものにしようという輩は、少なからずいるのだから。誘拐される可能性を考えて、それらから守るために護衛がついている。だから、どこにでも護衛はついて回る。王子の執務室でもそれは同じ。常に側に控えるのが護衛だろう。


 そして、毒の聖女の護衛は、別の命も兼ね合わせている。


「エルンスト卿は、信頼に値する人です。わたくしの護衛はわたくしを守るだけではなく、有事には最悪わたくしの命を奪う権利を持つのです。側に置いておくのは、どこでも変わりありません」


 もしも私が、外国の勢力などに奪われて自由を失えば、自国に不幸をもたらすことになるかもしれない。そのため、護衛は毒の聖女の命を奪う権利が課されるのだ。そうならないように護衛するわけだが、もしもの場合もある。辺境ではほとんど一緒にいた。婚約した頃も護衛はいたのに、何を言っているのだろう。


「廊下に衛兵がいただろう。そこで留め置くだけだよ」


 人払いをしたいのか? ならばそう言えばいいのに。だが、そこにエリサがいる。立ったままだが、私たちの話を聞いて、『出てった方がいんじゃないですか?』とエルンスト卿に声をかけた。

 エルンスト卿は無視をしているが、アルテュール様はエルンスト卿に出ていくよう、無言で扉を開く。


 エルンスト卿がチラリとこちらを見たので、私は小さく頷いた。彼を出すならば、エリサも出ていけと言うつもりで口を開きかける。


「ハンナも、出ていてくれる?」


 ハンナはアルテュール様の侍女だ。子爵夫人で、三年前もアルテュール様の側にいたのを覚えている。ハンナはまだ誰も出て行かないのを気にしながら、後ろ髪を引かれるように出ていく。


「聖女も」

「え? 別に大丈夫ですよ。私は誰にも言いませんし」


 もう、呆れてものも言えない。何を言っているのか。出ていけと言っているのだから、出ていけばいいものを。エリサは首を傾げつつも、私に振り向いて、『ね、大丈夫ですよね?』と確認する始末。

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