15−4 恨み
「ラチェットはあなたのところからヤラーニャを手に入れた。そこには毒のヤラーニャが入っていた。それを知らず、わたくしのところに持ってきたの。わたくしは毒がわかるから、毒のヤラーニャが入っていたらわかるわ。ただ、わたくしがアルテュール殿下に毒を盛ったということで、その薬草は封じたまま。アルテュール殿下の体調もよくないからと、毒の耐性用の薬は作らず、そのまま。わたくしはその薬草をずっと使わず、見てもいなかった」
もし、アルテュール様が倒れていなかったら、私はもらってきたヤラーニャを見ていただろう。そしてすぐに気付いたはずだ。ヤラーニャが入っている。危険だ、と。しかし、私は捕えられ、その後もいろいろあって、気付くことはなかった。
「ラチェット、あなたはエリサ様に、アルテュール殿下に飲ませる薬草、と言ったそうね」
「はい。デラージュ聖女様に、薬草を何に使うのかと問われたので、王太子殿下に毒の耐性をつけるため、癒しの薬草が必要なんです。とお伝えしました」
「聞いていないわ!」
「いえ、僕は言いました。そして聖女様は、それならば譲るとおっしゃったんです」
「あなたは気付いていたのよ。毒のヤラーニャに。そして、ラチェットの話を聞いて、思ったのでしょう。もしも、わたくしが渡した薬でアルテュール殿下が倒れたら。そうなれば、わたくしには暗殺の容疑がかかると。毒の聖女が毒を使ったって。実際、そのように噂されたわ。あなたはきっと、喜び勇んだのでしょうね」
「なっ。ひどいわ! どうして私が、そんなことで喜ぶと思うの!?」
エリサはここぞとばかりに反論してきた。彼女は覚えていないのだろうか。私が牢から出た後、私の研究所を荒らし、毒があるはずだと探し回ったことを。
「わたくしが犯人なはずなのに、アルテュール殿下がわたくしは犯人ではないと証言した。あなたは驚いたはずだわ。わたくしがアルテュール様を殺そうとしたのに、どうして牢から出されるの? と」
毒草の入った贈り物をすると知っていたのだから、そこにヤラーニャが入っていても、私が毒であると認識するだけだと思っていたのだろう。毒だとわかるが、種類までわかるものか。その程度の能力だと勝手に思い込んだ。
「毒の耐性を付けるための毒を、わたくしがアルテュール殿下に渡した。そして、アルテュール殿下はその毒で死にそうになる。あなたは、なぜかアルテュール殿下の部屋の側をうろついてたらしいわね。わたくしがアルテュール殿下と会う約束をしていると聞いて、近くに待機していたのでしょう。本当に毒で死んだら困るもの。急いで駆けつけて、すぐに癒さなければならない。それで、すぐに部屋に入ってきたのね」
「そんな、そんなことは」
「ねえ、あなたは勘違いをしているわ。わたくしはたしかに、アルテュール殿下に毒の耐性をつけるための毒をお渡しした。ハンナはそれを飲むためにお湯の用意をした。でもね、アルテュール殿下はわたくしの毒には触れていないのよ?」
「え?」
「あなたは、わたくしの毒を飲んだ飲んだとしつこく言うけれど、そのときアルテュール殿下は、紅茶しか飲んでいないの。わたくしの毒は、口に入れていないのよ」
「そ、そんなこと」
「それとねえ、わたくしは、毒をわざわざ煎じて飲ませる必要もないの。あなたの癒しの力と同じで、手をかざして祈るように、わたくしもわたくしの意思で、相手に毒を与えられるの。毒草を飲ます必要なんて、まったくないのよ。だって、そのまま、毒に犯せるのですもの」
「……だって、耐性をつけるために、薬を作ったって」
「そうよ。誰かが毒を盛った場合に、アルテュール殿下に何かあっては困るから、毒の耐性をつける。それは毒の聖女ではない誰かが作った毒なのだから、それを想定するのは当然でしょう? そもそも、わざわざ猛毒のヤラーニャを入れて、飲ませる必要はあるのか? という話なのよ。わたくしは毒を飲ませることなんてせずに、アルテュール殿下に毒を与えることができるのだもの。いつでもどこでも、少しでも近くにいれば、簡単に、ね」
だから、そもそもの根本的な問題として、毒を盛るという概念が必要ないのだ。なぜそんな面倒をしなければならないのか。私が辺境で、魔物相手に、わざわざお茶を淹れて飲ませていたとでも思うのか。
「わ、私、私は……」
もう言い訳を考えるのは難しいか。アルテュール様は顎で騎士たちを促す。騎士の一人がエリサの腕を取れば、エリサは引き攣った顔を見せた。
「わ、私じゃないわ! 薬草は、わかっていなかっただけよ。知らなかっただけ! ヤラーニャは入っているなんて、私は知らなかった! 薬師たちが、彼らが間違えたからいけないのよ! 私じゃない。王子様、信じてください。私じゃありません! あの人が、あの人の罠です! 私の薬草にヤラーニャを入れたんだわ。あの男が来たとき、おかしいと思ったのよ。きっと、薬草を欲しがるふりをして、私の部屋に毒を置いていったんだわ。信じてください。王子様、王子様!!」
エリサの叫びは、廊下に出ても響き、悲鳴のような声がこだましていた。
彼女は最後まで、私に罪をなすりつけようとしたのだ。
アルテュール様はまた、彼女の裏切りにも、心を痛めるのだろう。
「……ハンナ」




