15−3 恨み
考えていることが手に取るようにわかる。もともとエリサは正直なところが貴族らしくなく、平民のような気やすさが売りだった。思っていることが顔に出てしまうのも愛嬌として受け入れられていたが、醜悪な部分も隠すことができない。
アルテュール様は残念に思っているだろう。その腕は信頼していたのに、こんな裏切りをするのだから。
開いた扉から、ざわざわと騎士と一緒に部屋に入って来る者がいた。研究員のラチェットだ。そして、催淫剤を暖炉に仕込んだとされる、アルテュール様の侍女ハンナ。彼女は騎士によって捕縛されていた。
エリサは怪訝な顔を隠しもしない。繋がりがわかっていないので仕方がないが、想像も働かないようだ。
「話をしてくれるかな?」
アルテュール様の言葉に、ラチェットは頷く。
「僕は、デラージュ聖女様に頼まれて、癒しの聖女様に薬草を分けてもらうために、癒しの聖女様のお部屋に参りました。そこには癒しの聖女様がいらっしゃったので、『王太子殿下にお渡しするための薬草が足りなくなったので、少し分けていただけないか』とお話したところ、ご理解いただけて、薬草をいただくことになりました」
「そのとき、聖女はどうしていたの?」
「癒しの聖女様は、少し待って、と言って、机の上に並べてあった薬草を刻んでくださり、半分は使うからと瓶に入れ、もう半分は好きに持っていっていいとおっしゃいました。そして、用があるから、勝手に持っていっていいと、部屋を出て行かれました」
ラチェットの言葉に、エリサは口を閉じたまま、どこを見ているのか、視線の絡まない方向を見つめて、じっとしている。
アルテュール様はそれを確認してから、ハンナに向いた。
「それで、ハンナが聖女の部屋に入った」
「え!?」
反応したのはエリサだ。目を見開くと、ハンナに振り向く。ハンナは、その視線を避けて、床に視線を落とした。
「そのときのことを話して」
「私は……、いつも通りエリサ様のお部屋に、殿下に定期的に飲ませる薬草をいただきに参りました。エリサ様の薬草は瓶に入っていて、普段はそこからいただき、アルテュール殿下にお茶としてお出しするのですが、部屋に入ったとき、彼が先にいらっしゃいました」
「ラチェット、今の話は本当?」
「本当です。僕が癒しの聖女様の薬草をいただいているときに、この方がいらっしゃって、いつもは瓶からもらうそうですが、僕がいただいた薬草が余っていたので、瓶から取るよりこっちから取った方が、癒しの聖女様も助かるんじゃないかと話をしたら、この方もその方がいいだろうと言って、余っていた薬草を持っていた器に入れたんです」
「……うそ。そんなの嘘よ!」
「何が嘘だと思うんだい?」
アルテュール様は目を光らせる。置いてあった薬草も、瓶の中にある薬草も、同じ薬草だ。だったら、瓶に入っているものより、机の上に野ざらしになっている薬草を使った方が、エリサの片付けも楽になる。そんな、ありふれた優しさだ。
ラチェットは少しもらっていくと言って、その刻まれた薬草をもらい、私の研究室に戻った。ハンナは残って、そこにある薬草をアルテュール様のために持って帰った。
「ハンナは私に薬草を飲ませてくれた。いつも通りだよ。お茶にして、一杯飲む。食間と決まっているから、お茶の前くらいだね。聖女の薬湯に毒味はない。私は、リュシーとの約束の前に、それを飲んだんだ」
「嘘、嘘です! そんなの、嘘に決まってる!!」
「なぜ、嘘だと思うのよ。いつものことなのでしょう? アルテュール様はあなたの薬草を煎じて飲んだ。それからわたくしとの約束があり、わたくしたちはテーブルを共にした。何もおかしくないわ」
エリサは真っ青な顔になりながら、冷や汗をかいて震えている。死地へ向かう者の顔のようだ。
もう、そこに足を踏み入れているのだろうが。
「あなたの助手の薬師たち、昔の顔馴染みを連れてきているそうね。機関で働いていた、あなたを慕っていた、年下の男の子たちを」
癒しの聖女はその力を使うので、その魔力量で良し悪しが変わるが、薬師はどうだろう。十六、七の年で、完璧な仕事ができるのだろうか。しかも連れてきているのは、三年前だ。
機関がエリサにその子たちをつけることに反対しなかったのが不思議だが、苦言を呈しても受け入れなかったのだろう。エリサの性格を考えれば、想像に難くない。
「ステンロース卿が言っていたわ。エリサ様の薬師たちは、熟練とは程遠いと。それなりに学んだのでしょうけれど、せめて一人は長く携わった者にすべきだったわね。ヤラーニャを混ぜても、気付くくらいの、慣れた者を」
「ヤラーニャくらい、わかるわ! あなたが見分け方を教えたんじゃない!」
「そうよ。わたくしが見分け方を教えた。けれど、あなたは、それを利用したのよね?」
ヤラーニャは見分けがつきにくい。だから見分け方を教えた。アルテュール様が口に含むのに、猛毒が混ざったらたまったものではないから。
「あなたはヤラーニャがどんなものか知ったわ。だから、注意深く確認すれば、間違えることはない。何かあったら困るのはあなただもの。気を付けないと」
「ええ。その通りよ。私は間違えないわ。もう、わかったもの!」
「だから、わざと刻んで、わからなくしたのよね?」
私の言葉に、エリサは口をハクハク開け閉めして、首を振り始める。
「ちが、違うわ! どうして、どうして私がそんなことを!」




