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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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15 恨み

 あれから数日。ステンロース卿は捕えられて、牢に入れられた。私を襲おうとしたということは伏せられているが、余罪もあるようで調査中だ。レオニーもまた牢に入れられた。クリスティナ王女は現在幽閉されており、何にどう関わったかの調べが行われている。


 私たちの手紙のこと。アルテュール様が毒を含んだこと。催淫剤。その他諸々、繋がりを調べてわかったことは、多くのことが絡み合っているという事実だった。


「座ったままで、申し訳ありません」


 第二夫人はソファーに腰掛けたまま、私に頭を下げた。

 第二夫人は体調を崩しており、ベッドから起き上がれなくなっていた。今日は無理に客間まで来たのだろう。衣装は体にぴったり合ったものではなく、ゆったりしたもので、力なくソファーに座っているような状態だ。立ち上がることもできないほど、やつれてしまっている。前に会った時は、健康になったように見えたのに。

 クリスティナ王女主催のパーティも、反対していただけで欠席していたわけではなかったようだ。


「クリスティナの行いを正すことができず、申し開きもありません。どのような罰でも受ける所存です」

「顔を上げてください。今日お会いしたかったのは、レオニーについてなんです」


 私がアルテュール様にお願いしてまで第二夫人に会うことにしたのは、レオニーの復讐が、動きの割にさほど大きな事件でなかったことが気になったからだ。

 レオニーが行っていたことはまだ調査中ではあるが、主にクリスティナ王女を騙して、その王女としての立場を覆すことが目的だった。その結果、クリスティナ王女は、良くてさほど力のない貴族への降嫁。悪くて修道院送りになるかならないか。私を牢に入れた、拐かす手伝いをした。残念ながら死刑までの罰にはならない。


 私の性格が悪いのか、その程度で復讐になるの? そんなことを思ってしまう。

 たしかにクリスティナ王女でなくとも、修道院送りはとんでもない話だろう。離宮に閉じ込められた程度で、反省も何もなく他人事のように私に罪をなすりつけるような人に、修道院送りは相当な罰になる。


 だが、レオニーからすれば、どうだろう。


「レオニーは子爵令嬢で、身元ははっきりしていた。けれど、レオニーの生みの親は、クリスティナの乳母だったんだ」

「そのように聞いております。乳母も王城を出てすぐに亡くなっていたとか」


 アルテュール様の言葉に、第二夫人は長いまつ毛を頬に落とした。青白い顔をさらに白くするようで、体調の悪さがありありと見えた。目も赤く、唇は土気色。髪も艶がない。首元には発疹が出ている。爪も弱くなっているのか、色が変わり凸凹がこの距離でもわかる。


 あまり長く話さない方がいいだろう。目的は、レオニーについて問うことではない。


 レオニーの父親は結婚前に愛した女性がおり、その人との間に娘がいた。それがレオニーだ。しかし家の事情で別れてお互い別の人と結婚。レオニーは子爵家で育てることになった。

 レオニーの父親と結婚した継母は折り合いが悪かった。家同士の結婚だったため、夫婦の愛は冷え切っていたのだ。継母はレオニーに辛く当たった。父親はレオニーを連れ、別れた女性と秘密裏に会っていた。しかしすぐに継母に気付かれる。継母の実家は伯爵家で、父親は継母の実家に頭が上がらない。父親は継母の言いなりになり、レオニーにも冷たく接するようになった。


 爪弾きにされていたレオニーは、本当の母親である乳母を頼るようになる。レオニーの唯一の理解者が、乳母だったのだろう。

 しかし、その乳母だったレオニーの母親は、王太子殿下を殺しかけた罪を負い、王城を追い出される。そんな妻を夫は受け入れず、乳母は町をさまよい、そのまま死亡した。それを知ったレオニーは、復讐を考える。


「最近、体調が悪いと聞きました。癒しの聖女に治療してもらったと聞いていますが、その後も倒れられたとか」

「お恥ずかしい話です。ここ最近、ずっと体調が悪くて。聖女様にも癒していただいたのですが、すぐにまた悪くなってしまうのです」


 癒しの聖女、エリサではない、一般契約の聖女だ。エリサほどではないが、腕は良い。けれど、その癒しをもらってもすぐに体調を壊す。原因はわかっていない。そもそも癒しの聖女も、そんな原因などわからずに癒しに特化しているのだ。そんな原因を知る必要がないのである。


「失礼ですが、寝所を見させていただきます」

「え、は、あの……」


 アルテュール様がメイドに案内を頼み、私は第二夫人の寝所へ進む。

 第二夫人の体に毒は見られない。見た目だけでは判断できないが、飲食で毒を含んでいるわけではないだろう。第二夫人にも毒味がいるからだ。では、それ以外では?


 寝所の扉が開かれる前から、私は震えそうになった。


「……なんてこと」

「リュシー?」

「アルテュール様、部屋に入らないでください。毒が充満しています! ひどいです。こんな。ありとあらゆる毒が、あちこちに」


 私は扉が開かれる前に、その部屋の毒を全て消し去る。枕元、ドレッサーの引き出し。カーテン。クッション。至る所で、毒が滲み出ていた。

 枕を切り裂けば、その中から毒草がでてくる。ドレッサーの引き出しには、毒が滲み出ている宝石が。カーテンは布地がそもそも毒があるもので、クッションにも毒草が。他にもあちこちに毒が仕掛けられている。


 これでは、どれだけ健康な人でも、簡単に体調が悪くなるだろう。第二夫人など元から体が弱い人ならば、一日でもこの部屋で眠れば、すぐに気分が悪くなってしまう。


「第二夫人を、じりじりと弱らせて殺す。しかも、クリスティナ殿下が幽閉されることを見越していて……」

「離れている間に、死ぬように仕掛けたとういうことかい?」


 私は頷く。たとえ癒しをもらっても、すぐに体調が悪くなる。癒しの力でも、完全な体力の回復は難しい。癒しと毒と、何度も繰り返していけば、体はどんどん弱くなっていく。

 そうしてそのうち、第二夫人の体力は底を尽きるだろう。そのとき、クリスティナ王女は第二夫人の側にいることはできるだろうか? 修道院にでも送られていれば、死に立ち会うことはできない。レオニーと同じ。知らぬ間に亡くなっていて、助けることもできない。


「これが、レオニーの復讐か。レオニーも逆恨みだと、なぜわからないのだろうね」


 幼いクリスティナ王女の、ちょっとした遊び。それを黙認した乳母。何も知らなかった第二夫人。けれど、その後乳母が亡くなって、それを知らずにいた二人が許せなかったのだろうか。せめてそれを知って、墓でも作って参っていれば、そんな気持ちも起きなかったのだろうか。


「毒は、自分で集めたのだと思います。ステンロース卿はレオニーの正体を知らなかったようですから」


 ステンロース卿がレオニーに毒を渡したわけではない。クリスティナ王女も、毒に関わっていない。

 では、アルテュール様に毒を盛ったのもレオニーなのか?

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