13−3 招待
夜会と銘打って、誕生日パーティ兼お見合い。それでもアルテュール様の婚約者である私を招待しなければならないのだから、クリスティナ王女は不機嫌に違いない。
挨拶だけ済ませて、クリスティナ王女には近寄らないことと、アルテュール様に注意される。それから、他の者たちにも警戒するようにと注意を受けた。
「多くの者たちが出席しているから、気を付けるんだよ? 俺を狙ってくるかもしれないけれど、君を狙う可能性だってあるから」
相手の目的がわからないままだが、私とアルテュール様の交流を邪魔しようとする者がいるのは確かだ。アルテュール様を殺して、私にその罪に押し付けたいのか。催淫剤のことを考えると、アルテュール様とエリサに既成事実を持たせたかったのか。どれも犯人が見つかっていない。アルテュール様は犯人の目星はつけているようだが、どれも証拠が得られないのだとぼやく。
手紙が滞ったのはアルテュール様と私どちらとも。催淫剤はアルテュール様の近くにいる者。毒も同じ。ならば、アルテュール様の周囲にいる者の仕業だろうが。
アルテュール様を毒で狙っておきながら、エリサとの関係を結ばせたいっていうのも、よくわからないのよね。
「飲食する場合は、必ず私の前でお願いしますよ?」
「わかっているよ。君は変な男について行かないようにね」
「ついて行きませんから」
「なら、よし」
何が、よし。アルテュール様は隙があったと、私に顔を寄せる。
「私の口紅を、全て奪う気ですか?」
「それもいいかもね」
言って、柔らかに押し付けるような口付けをしてくると、そのまま胸元に移動して、指でドレスを軽く下げて、小さく吸い付いた。
「きゃっ! アルテュール様! もう到着します!」
「ん。変な男が近付いたら、これを見せるといいよ」
「見せません!」
なんてことを言うのだ。私は胸元の布を上げて、睨め付ける。
アルテュール様はいたずらっ子のように笑って、ちょうど到着して開いた扉から先に降りると、恭しく手を差し伸べてきた。
「さ、婚約者殿。私の手におつかまりください」
私はアルテュール様を睨め付けるが、まったく反省はしないと、口端を上げてニヤリと笑う。
いつも無表情で感情の発露がないアルテュール様は、私の前では驚くほど表情を変える。その姿に、私は愛しさで抱きしめたくなってくる。けれど抱きしめれば何をしてくるのか想像できるので、それを我慢して、私はアルテュール様の手のひらに自分のそれを重ねて、馬車を降り立った。途端、人々の視線が集まってくる。
私とアルテュール様が一緒にパーティに参加するのが、それほど驚くべきことなのか。
エリサのことを考えたら、驚いて当たり前か。
エリサには、研究所を荒らされた後、会っていない。
私の立場は相変わらず、アルテュール様を毒殺したかもしれない容疑者の一人ではあったが、アルテュール様と思いが通じて、余計な噂は右から左へ。私の耳に留まることはなかった。
アルテュール様の体調は良くなり、エリサを呼び出すこともなくなったという。エリサが私の研究所で暴れたことは、アルテュール様の耳に届いており、そのことでエリサに忠告も行ったそうだ。
それから、エリサも鳴りを潜めて、アルテュール様専属の聖女でありながら、姿を見せていない。
アルテュール様に何か言ったのかと私を責めてきたほどだったが、少しは反省してくれるといいのだが。
「お兄様、来てくださったのね」
クリスティナ王女がうれしそうにアルテュール様に近寄ってきた。アルテュール様はかすかに微笑む。その笑みは、普段通りの笑い方だったが、クリスティナ王女の誕生パーティで見せる笑いではなかった。作られた笑いだ。
クリスティナ王女も気付いただろう。一瞬、身をすくめるように体を強張らせた。
クリスティナ王女の行動を、私を牢に入れた所業を、非難しているのだ。
これは、睨まれて無視されるのだろうな。と私は想定したが、クリスティナ王女はわかりやすく肩を落とした。
「お兄様、リュシエンヌ様。おいしいお酒などもあるから、楽しんでくださるとうれしいですわ」
そう言って、私を睨みつけることなく、すごすごとその場を去ったのだ。
「反省、されているみたいですね」
「そうだといいけれどね」
大好きなお兄様に軽く微笑まれただけ。おめでとうとも言われず祝われることもなかったのだ、さすがのクリスティナ王女もショックだったようだが。なんと言っても、私に挨拶をした。いつもならば、顔を斜めにして、鼻で笑うような態度なのに。
アルテュール様はじっとクリスティナ王女の姿を見ていたが、貴族たちの挨拶を受けて、その背を追うのはやめた。
たしかに、少し気になるわよね。あれだけ私を逆恨みしていたんだもの。
だが、彼女がアルテュール様に嫌われたくないと考え、私への恨みつらみを表に出さないようになれば、それは前進な気がする。婚約者を嫌う図でも、逆恨みであるということは、ある程度の年齢の者たちには周知されていることだからだ。エリサを推したい者たちからすれば、その図は面白みのあるものだけれど、私が本当にアルテュール様と結婚すれば、クリスティナ王女の態度は自分の首を絞めるだけになる。
自ら律しないのならば、同情の余地などないわ。
クリスティナ王女の誕生日会だというのに、アルテュール様に挨拶する者は列を成した。ここには王と王妃が参加していない。それも罰なのだろう。第二夫人は体調が悪いらしく、娘の誕生日でも不参加。もしかしたら、意図的かもしれない。
結局、来場したのはアルテュール様だけ。ならば、アルテュール様に話をしにくるのは当然の流れだ。
主役のクリスティナ王女は、女友達と一緒で、男性も側にいない。婚約者を見付けられるのだろうか。参加している貴族たちは、今回のパーティが何の目的で開催されているか、耳にしているはずだが。
「リュシエンヌ様にご挨拶を」
「あら、ステンロース卿」




