13−2 招待
クリスティナ王女主催の、夜会の招待状。
この状況下で、よくそんなものを主催する気になるものだ。
アルテュール様と相思相愛がわかってから、クリスティナ王女には会っていない。私を牢に入れたことで、王より叱責があり、クリスティナ王女の住まう離宮に閉じこもっていたようだが、罰があるわけではなかった。
そのクリスティナ王女が、夜会を行うと、多くの者たちを招待したとか。
何を企んでいるのだろう。
当初、不安はあったが、今はその気持ちもなくなった。
「リュシー、手を」
「はい、アルテュール様」
アルテュール様の差し伸べた手に触れて、私は馬車に乗り込む。
二人きりの時はリュシーと呼んでくれていたが、婚約破棄をしたいのではという勘違いで、アルテュール様は私をリュシエンヌと呼んでいた。私も同じだ。アルテュール様をアルテュール殿下と呼んでいたのだから。
王宮で開かれるのに、アルテュール様はわざわざ侯爵家まで迎えに来てくれた。
アルテュール様はネイビーのダブルブレストで立襟のある上着を着ている。やはり着痩せするタイプなので、すっきりとした体型に見えた。脱いだらあんなに筋肉質なのに。
ポン、と頭の中に肌を出したアルテュール様の姿が思い浮かべられて、私は上着から足元に視線を落とした。
なんですぐに思い出すのよ。煩悩が!
金刺繍のされた白のマントは裏地が濃い赤で、アルテュール様らしく高貴な雰囲気を持っていた。マント留めのプローチには、わたしの瞳の色が使われている。
ズボンは白のブリーチズ。それから、金の縁取りのあるネイビーのロングブーツを履いていて、足の長さを際立てていた。
つい見惚れてしまい、ぼうっと見つめていると、アルテュール様は余裕のある笑みを見せてくる。
あの後、寝室の見舞いの日から、久しぶりに会うせいか、その笑みが別人のように自信にありふれたように見えた。
「どうかした?」
「かっこいいなと」
「ふ。そんなことを言うの? 初めて言われたね」
「そうでしたか?」
「そうだよ。リュシーはいつも俺のことを、『かわいい』と言っていたからね」
確かに。かっこいいと言ったことはないかもしれない。けれど、思い出の中で、アルテュール様は『かわいい』から『かっこいい』に変わった時期はあって、私はそれを口にしたことがなかった。
かっこいいと思った後、アルテュール様に聖女がついた。だからその褒め言葉は、使うことがなかったのだ。
「リュシーも綺麗だよ。俺の女神だ」
アルテュール様は、さっと私の手を取ると、その甲に口付ける。当たり前のようにその手をとったまま、私の隣に座った。
「あ、アルテュール様」
「何? この手、邪魔なんだけれど?」
「邪魔してますから」
油断も隙もない。アルテュール様は隣に座った途端、私の腰に手を回し、口付けようとしてくる。
私はそろそろ気付き始めた。アルテュール様はとても、手が早いのではなかろうかと。
「これから、パーティですよ」
「そうだね。けれど、久しぶりに会うのだし、少しくらいはいいんじゃないかな?」
「よくないです」
私はアルテュール様の口を手で封じたが、アルテュール様は目を細めると、ペロリとその手を舐める。
悲鳴にならない声を出しそうになれば、すぐさまその口を封じてきた。
「ん、もう! 口紅が。アルテュール様、その唇でパーティに参加するおつもりですか?」
「わかりやすくていいんじゃないかな。俺たちは、結婚間近だって」
まだ結婚の日取りも決まっていないし、そんな顔を皆に見られたら、何を噂されるかわからないので、冗談を言うのはやめてほしい。
私は無言で、アルテュール様の唇をハンカチで拭う。
「あれから手紙でしか連絡が取れていなかったんだよ、これくらいは許してほしいのに」
あれから、アルテュール様と会えない時間が続いたが、手紙で連絡を取り合っていた。渡す相手は決めていて、お互いに直接渡し、返事をもらうように命じてある。それを行ってからは、手紙が滞ることはなかった。
だから、会うのは久しぶりで、こうやって二人きりになったのも、あれ以来なのだ。
「首飾り、ドレスにとても似合っている」
「ありがとうございます。すごく、素敵で」
私はそっとそのネックレスに触れる。アルテュール様が贈ってくれた、パープルサファイアが飾られたものだ。
私はアルテュール様の瞳と同じ色のネックレスに合った、濃い青と薄い紫が混ざったオフショルダーのドレスを着ていた。長く垂れ下がった袖と、左右に分かれて幾重にも重なったスカートをしている。
「本当はドレスも贈りたかったのだけれど、パーティが決まったのが直近すぎてね」
パーティは夜会という名の、クリスティナ王女の誕生日パーティだ。アルテュール様によると、私を牢に入れたことが尾を引いているため、パーティを行う予定ではなかったと言う。
犯人がまだ見つかっていないとはいえ、証拠もなく侯爵令嬢、アルテュール様の婚約者を牢に入れて一晩放置したのだ。クリスティナ王女にパーティを行わせるかどうか。侯爵家との関係を考えれば、行うわけにはいかない。
けれどクリスティナ王女は十六歳になり、結婚相手を見付けなければならなかった。クリスティナ王女の懇願もあり、急遽夜会としてパーティが開催されることになったのだ。
「俺のこともあって、周囲から軽んじられないように擁護していたら、我がままに育ってしまった。今度は結婚相手に困る。そんな感じかな」
第二夫人は今日のパーティ開催を反対していた。クリスティナ王女を強固な性格にさせてしまった引け目があるため、結婚相手も政治に関わりにくい相手を望んでいるほどだ。
母親が大切という割に、第二夫人の意見を尊重しないのだから、王も匙を投げる寸前なのだろう。そこそこの者に王女を降嫁させたいのだ。王族に影響を与えないような、そんな相手に。




