13 招待
わたしの顔はほてっている。
「ちゃんと眠ってくださいよ」
「大丈夫よ。そんなに熱はないもの」
「この間倒れたばかりなのに、すぐに城へ行かれるからですよ」
あの後、私は微熱を出し、ベッドに強制収容された。過保護なサーラの声を聞いて、私はベッドで横になる。大人しく寝るように言われてからサーラが部屋を出ていくのを見送って、私は悶えるようにベッドの上を転がった。
だって、横になるといろいろ思い出してしまう。
「ああっ、恥ずかしすぎるわ」
体調を悪くしているはずのアルテュール様に流されて、私は身を委ねた。
私たちは今までのことを補うように、何度も口付けて……。
「ううっ!」
胸が苦しい。苦しいと言うか、恥ずかしくて、死にそうになる。
数えることもできないくらい交わした口付けの後、アルテュール様は私の首筋に場所を移し、いつの間にか体制を変えて、私に覆い被さった。口付けは首筋から鎖骨に下がり、腰にあった手は、そのまま下がって、脛に伸び、普段あらわになることのない太ももを撫でた。
人払いをしているとはいえ、体調不良のアルテュール様が私に何をするなど、誰が考えるだろうか。
「私だって考えてなかったわよっ」
婚約破棄を言いつけられると、いつもビクビクしていたのに、それは思い違いだった。意思の疎通が悪かった結果、お互いモヤモヤしたまま過ごしていたのだ。
それが解消されたからと言って、二度目があるとは。
「いえ、前回は不可抗力だったし。――いえっ、だからこそダメじゃない!?」
私は毛布にくるまりながら、一人自分に突っ込む。
婚前交渉はダメですよ。って何だった? そうアルテュール様に問いたい。
一度越えたら次も簡単に越えられると、正気ながら、アルテュール様は何度も体を揺さぶって、私に熱を移したのだ。
そうして、途切れ途切れで息継ぎしながら、言うのだ。
『誰にも、渡さないから』
私が一番欲しかった言葉。
『誰にも、渡さないで』
そう返せば、アルテュール様は激しさを増した。
余裕のない声と、流れる汗。火照るどころか、熱を上げて、体を重ね続けた。
アルテュール様の体調はいかばかりだろう。私以上に熱が上がったに違いない。
「ああ、次どんな顔して会えばいいの!? 今回は事故じゃないのよ!」
別れ際アルテュール様は、結婚は早めるようにするよ。と笑顔で見送ってくれた。進展が早すぎて、私の感情は浮き上がったまま戻ってこられない。
「……結婚なんて、想像つかないわ」
アルテュール様の婚約者から、アルテュール様の妃になる。その急激な変化に、私はついていけるだろうか。
結婚したら、私は王宮に住んで、アルテュール様と衣食住を共にすることになる。
「あ、煩悩が!」
衣食住の、夜を思い浮かべて、私はベッドに突っ伏した。煩悩を頭の外に出そうと、枕を抱きしめて、足をバタつかせる。
いつからこんなに淫らな想像をするように!?
「ううっ。アルテュール様のせいよ。一足飛びどころか、飛びすぎなのよ。両思いから飛ばしすぎなのよっ」
けれど、熱で侵されそうになりながらも、心の中が満たされて、私はそれを抱きしめてやりたいほど愛しく思った。こんなに幸せなことがあるだろうか。
諸々、はっきりしていないことはあるが、アルテュール様も長く会っていなかった私に、臆病になっていたという。私がこちらに帰ってきて、誘いの手紙を出しても返事を寄越さないならば、臆病にもなる。
「私も同じだったわ」
戻ってきてからアルテュール様に連絡していたのに、返事が来ない。だから私はアルテュール様に会いに行こうとした。アルテュール様は私に直接会いに来たり、人を使って私を呼び寄せたりしていたのだ。
なのに、話そうとしてもエリサは離れようとしない。私の後ろにはエルンスト卿がいる。二人きりになれても、ぎこちなく思いを口にすることはしにくい。何かしら邪魔が入る。
むしろアルテュール様は、二人きりになれるように努力はしていたのだ。それなのに私が婚約破棄について口にするものだから、アルテュール様は婚約破棄をしないとしか言えなかった。意固地になっていたとアルテュール様は言っていたが、よくよく考えたら、私も婚約破棄ということしか言っておらず、まるで私が婚約破棄をしたがっているようにしか聞こえなかったのも頷ける。
婚約破棄だけはしないと豪語していたアルテュール様は、なんとか私を繋ぎ止めるために、口付けを……。
「ふ、ふふ」
笑ってはいけないが、笑ってしまう。
アルテュール様は私を抱きしめながら、言うのだ。
『嫌がられているとわかっていても、離したくなかったから、誰にも渡さないと口付けたんだ』
『嫌われていたら、もっと嫌われるだろうけれど』
などと、普段からは見られない情けない顔をして、そんなことを口にした。
口付けは確かに私を混乱させて、アルテュール様が何を望んでいるのかわからなくさせたけれど、婚約破棄については一貫して、『しない』と断言していたのを思い出す。
お互いにすれ違いをして、お互いに心の内をさらけ出すことができなかった。
けれどやっと、心が通じたのだ。
「ふ、うふふ」
「お嬢様、よろしいですか」
「はいっ! 何!?」
ノックの音が響いて、私は飛び上がりそうになった。散々叫んでいた独り言を聞かれただろうか。
しかしサーラは顔を青ざめさせながら、手紙を差し出す。
「すぐにお返事が欲しいそうです」
渡された手紙は、クリスティナ王女からのものだった。




