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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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12−2 好意

 誰か扇動でもしているとしたら、クリスティナ王女だろうか。それとも、アルテュール様に毒を盛った犯人か。


 私を牢屋に入れたことで、クリスティナ王女は王からの叱責はあったが、謹慎などの処分はないという。それは未だ犯人が捕まっていないため、処分がしにくいからだろうとお父様は言っていた。

 私は容疑者の一人と捉えられているし、クリスティナ王女の面目も保ちたいのが透けて見えた。それをお父様はお怒りだったけれど。


「リュシエンヌ様、様子が変です」


 研究室もあと少しというところで、エルンスト卿が私の前に立ちはだかった。研究室の前でニーネが誰かと揉めている。扉は開いていて、誰かがニーネを突き飛ばした。


「ちょっと、何をしているの!」

「デラージュ聖女様、中で、癒しの聖女様が」


 転がりながら言うニーネの声に、私は彼女を起き上がらせると、急いで研究室の中に入った。

 その研究室の惨状に、私は口を大きく開けてしまった。

 棚に入れているはずの本が床に落ち、整理されていたはずの資料が散乱している。机の上には薬草を入れた瓶が転がり、蓋が開いて外に出ていた。それが床にも落ちていて、幾つも転がっている。


「これは、どういうことなの!?」

「デラージュ聖女様! 癒しの聖女様がいきなり入ってきて、部屋を荒らし始めたんです!」


 研究室にいたのはエリサだ。ラチェットが机の前で両手を広げてエリサを止めていて、ビートがその邪魔をしている。ラチェットは涙目だ。エリサを前にして、なんとか抗っていたのだろう。


「うわっ! いてええっ!」


 エルンスト卿がサッとビートの手首を持って、床にひれ伏させた。背中に腕を取られたビートは、床に顔を擦り付けたまま、痛みに顔を歪める。


「何をなさるんですか! 手を離してください!」

「何をなさるはこちらのセリフよ。一体、ここで何をしているの。彼女たちに暴力まで振るって!」

「薬草の確認をしているんです。邪魔をしたのは彼女たちですよ!」


 エリサは悪びれる様子もなく、私に振り向いた。最初の頃の笑顔は剥がれ落ちて、私を鋭い目付きで睨んでくる。

 アルテュール様が倒れたときより、ずっと目が鋭い。

 そのエリサの雰囲気に、私も眉を傾げた。やけに殺伐とした様子だったからだ。


「……誰の命令で、薬草の確認を?」

「私の独断です。毒薬ならば、必ずここにあるはずですから!」


 それは当たり前だろう。ここは毒の研究室だ。なんなら、毒だらけである。

 私は呆れて、何と言おうか迷うほどだった。口を開け閉めして、額を押さえる。


「誰の許可もなく、わたくしの研究室を荒らしに来たということなのね?」

「王子様を殺そうとした毒を探しに来たんです。ここにあるんだわ!」

「ここは毒を扱うのだから。ヤラーニャだってあるわ。ただし、量は数えられているし、その使用量や日時、目的まで、細かく記してある。アルテュール殿下に使うようなものはないわよ」

「そんなの、簡単に変えられるんじゃないですか? あなたが使ってるんだから」

「ヤラーニャはどこでも手に入れられるのよ。わたくしだけではなく、誰もがね」

「わかっているんですよ。王子様を殺そうとしたって!」


 エリサは正気ではないようだ。どうしても私を暗殺者に仕立てたいと言わんばかりに攻め立ててくる。

 アルテュール様が毒に犯されて、死の境をさまよいそうになったところを、エリサが癒したのだ。彼女自身は誇っていればいいものを、自主的に犯人探しをしている。アルテュール様のためだだろうが、そんなことをすれば本来調査する者の邪魔になるだけだ。


「あなたのやっていることは越権行為だし、調査の撹乱になるわよ。そんなに犯人を見付けたくないの?」

「なっ! あなたがやったことはわかっているんですよ! 王子様との婚約はうまくいってないって聞いています。王女様もおっしゃっていました!」


 その言葉に、私は鼻で笑ってしまった。その原因が誰にあるのか、そして自分で婚約の邪魔をする気はないと言っていなかっただろうか? もう忘れてしまったのかもしれない。

 そしてクリスティナ王女は、エリサにあることないこと聞かせているというわけだ。

 私は怒りを通り越して、脱力するしかなかった。こんな者を相手にしても、埒が明かない。相手にするだけ無駄だ。


 エリサは見えていないのだろうか。ラチェットやニーネですら、彼女を絶望した顔で見ている。憧れの癒しの聖女が、常識を疑う行為をしているのだ。それに助長しているビートなど、完全に暴漢だ。ラチェットは殴られていたのか、頬が赤くなっている。その頬を見ているだろうに、エリサは何もしないのだから、ラチェットは癒しの聖女の行いを落胆して見ているだろう。


「王子様は違うとおっしゃっていたけれど、私は犯人はあなただって確信しています!」

「あらそう。研究室に来たことは、アルテュール殿下はご存じなわけ?」

「それは……」


 エリサは途端小声になって、身を竦める。その姿を見ているだけでうんざりした。


「いい加減にしてちょうだい。これ以上下らない真似をするならば、わたくしにも考えがあるわ」


 何をするとは言っていないが、エリサはグッと唇を噛み締めた。ふるふる震えて、涙目になってくる。

 感情だけで動くこのエリサに、私は同情さえ覚えた。癒しの力が強すぎたせいで、まともに常識を学ぶことなく、チヤホヤされてきたのだろう。打たれたことがなく、耐性もない。だから癇癪を起こすのだ。

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