11−3 幽閉
「王太子殿下は先ほど目覚められて、リュシエンヌ様は犯人ではないと証言を、リュシエンヌ様!?」
私は安堵したのか、ガクリと足の力が抜けて這いつくばるように座り込んだ。込み上げるものがあって、顔を上げることができなかった。
良かった。それが口から発せられていたかはわからない。再び咳き込んで、めまいを感じた。
「リュシエンヌ様、失礼致します!」
なんだろうか。エルンスト卿の言葉をぼんやりと聞くと、ふわりと体が浮いた。そのせいで、めまいが強くなる。
「熱がおありです。すぐに屋敷に戻らないと」
「……待って、アルテュール様にお会いしないと」
「今は、眠っていらっしゃいます。それよりも、リュシエンヌ様の方が。おい、そこをどけ!」
エルンスト卿に抱かれた体は熱く、それが私の体温なのか、エルンスト卿の体温なのかわからなかった。ただ、エルンスト卿の胸の前で抱かれると、その温かさに力が抜けていく。
「すぐお連れします。少し我慢してください」
熱い気がするのに、寒気がひどい。私は頷いて、エルンスト卿の胸に頭をあずけて瞼を下ろした。
地下から出れば、外の光がまぶしくて、頭が痛くなりそうだった。いや、すでに頭痛があって、後頭部をガンガン殴られているようだった。
周囲のざわめきから馬車の扉が閉まる音が聞こえ、馬が走り出す。
「リュシエンヌ様、すぐにお屋敷に着きます」
私は声を出す気力もなくて、軽く頷く。
エルンスト卿は私を抱きしめて、何かをかけてくれた。マントだろうか。寒さがすこしだけマシになって、小さく息を漏らす。
「くそ、あの王女……」
エルンスト卿のつぶやきが耳元に届いたが、それに反応することはできず、私は眠りについた。
◇
「お嬢様、お目覚めですか!?」
目を開ければ、屋敷のメイドサーラが視界に入った。
「アルテュール様は、……っ」
「お嬢様! 急に起き上がられるから。今、医者を」
「アルテュール様は、アルテュール様はどうされているの!?」
私は飛び起きて、めまいを感じながらサーラに掴みかかった。
いつの間にか屋敷にいた私は、着替えもされてベッドで眠っていたようだ。どれくらいの時間が経ったのか。私の必死さにサーラは面食らっていたが、すぐに「大丈夫です」と、私の手を握る。
「王太子殿下は、問題ないとのことですよ。お嬢様はもう少しお休みください。丸一日眠っていらっしゃいました。旦那様も奥様もご立腹ですよ。無実のお嬢様を牢に入れたと。お食事はできそうですか? すぐにご用意いたします」
一日眠っている間に、いろいろあったようだ。
私の熱は微熱だったので、食事をして、医者に診てもらった後、ベッドに眠ったまま両親を部屋に迎えた。
サーラの言った通り両親はひどく怒っていて、お父様に至っては憤懣やるかたないと、険しい顔をしてやってきた。
「あの王女は、何を考えているんだ! まともに調べも終えていないのに、お前を牢に入れるなど! このことは厳重に抗議する」
「まったくだわ。私たちに対する王女様の態度も、年々ひどくなっているのよ。第二夫人の肩身が狭くなっていると、なぜ気付かないのかしら」
「あれを律しきれぬのだから、娘と共に家に戻すべきだろうがな」
もちろん、それを勧めるつもりだと、お父様は鼻の上に皺を寄せた。
クリスティナ王女の行動は、周囲に影響を及ぼすだろう。お父様はそう続ける。それを想定していないクリスティナ王女と、手綱を締めることができない第二夫人が悪いのだと。
それについては私も同意だ。第二夫人には同情するが、クリスティナ王女を嗜めるのは第二夫人やその周囲の者たちの仕事。それを怠れば、影響が出るのは想像ができる。なのにレオニーはまるで他人事のような態度だった。レオニーも現実が見えていないのではなかろうか。
「お父様、アルテュール殿下暗殺の犯人の目星はついたのでしょうか?」
「残念ながら、まだ何もわからないそうだ」
「毒の種類はわかったのですか?」
「ヤラーニャだ」
やはりそうだったか。毒の検出は吐瀉物からわかったのだろう。その毒が何の毒かは、医者が成分を調べれば、見当はつく。
「では、どこで毒を含んだのでしょう」
「それも、まだわからないそうだ」
毒味がいるのだから、食事で入ることはない。遅延性の毒だったため、飲み物だろうとなった。アルテュール様は私と会う前に、数度飲み物を飲んでいた。だが……。
「朝食、訪問者とのお茶、公務の間に二回。昼食。可能性があるのが、公務中のお茶だということだが、そこからは毒は出なかった。毒味は無事だったようだから」
「ヤラーニャならば、一口飲んだだけで死亡しますからね」
何の毒かわかっても、どこで含んだのかわからない。
それで、私を部屋に閉じ込めたのか。私ならば飲み物など用意せず、毒を与えられると思ったのだろう。それは間違っていない。私は癒しを行うように、毒を与えられるのだから。
「犯人は見つかっていないが、王太子殿下がお前は犯人ではないと証言されたため、放免となったんだ」
「では、正確には私の嫌疑は晴らせていないということですね」
「残念だが」
お父様は申し訳なさそうに言う。しかしそうであれば、犯人は未だ城の中をうろついている可能性があるのだ。
「けれど、リュシエンヌは城に入るなとは言われていないのよ。だから、いつも通り過ごして良いそうなの」
お母様は遠慮げに言ってくる。城には行かないでほしいと思っているのだろう。城に行けば、クリスティナ王女がいる。
それでも、城に入ることが許されたのは、アルテュール様のおかげだ。アルテュール様は私を信じてくれていると思っていいのだろうか。
「とにかく、今は休みなさい」
「そうよ。体を温めて、体を休めなさい」
両親が部屋を出て行って、私はパタリとベッドに寝転んだ。
アルテュール様とはまだ会えないようで、意識は取り戻しても万全でないことがわかる。命を取り留めただけ、良かったのだろうが。
私は毛布を握りしめる。
「犯人は、私が見つけるわ……」
許さない。アルテュール様を狙ったことを。必ず、犯人を見つけてやる。
そう誓って、私は次の日、体調を元に戻し、城へ向かったのだ。




