11−2 幽閉
扉を封じていた衛兵たちを、他の兵士たちが剣で押さえている。私は兵士たちに引きずられて、部屋から出されると、兵士たちに囲まれたまま歩かされた。
どこへ行く気だ。兵士たちが進む方向に、私はゴクリと喉を鳴らした。
まさかと考えることもない。地下まで連れて行かれると、牢の中に突き飛ばされた。
冷えた石畳のような床に、私は手をついた。小石が落ちていたのか、突き飛ばされたせいで、手の皮が擦りむける。
「いった……」
「いい気味ね」
牢に鍵がなされると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「クリスティナ殿下。これは、どういうおつもりですか」
「お兄様を殺そうとしたんだから、牢に入れられるのは当然でしょ!」
「わたくしではありません」
「毒を扱うんだから、証拠なんて簡単に消せるんでしょ。あんたが犯人だってくらい、わかっているのよ!」
クリスティナ王女は、牢の暗がりには不似合いな薔薇色のドレスを着て、毒花のように罵った。
「このことは、王と王妃はご存じなのですか?」
「あんたが婚約者だろうと、お兄様を傷付けたのだから、正しいことをしたとおっしゃるわ! あんたに似合う場所だと思わない? 毒花なんて、外を歩くものじゃないわ。地下で鬱々として、カビ臭い中で咲いていればいいでしょ」
「クリスティナ殿下は、侯爵家を敵に回すおつもりだということでよろしいですね」
「お兄様を殺そうとした娘がいる侯爵家なんて、取り潰しよ!」
クリスティナ王女は言いたいことだけを言って、鼻を鳴らして踵を返す。後ろに控えていたレオニーが、私の顔を眺めて、うっすらと笑った。
「このような真似を止められないのだから、あなたにも責任があるわよ、レオニー」
王女の専属メイドが主人を止めることなく、ただ言うことを聞いて後につくだけ。王女ともあろう方のメイドが律しきれないのは、後に問題になるだろう。
私が犯人であると、証拠を捏造するのならば、また話は違うが。
そうするつもりなのか、レオニーは私の言葉など気にもしないと、冷めた目を向けた。
「どうぞ、ごゆるりと」
お茶会の時と同じ言葉を放ち、レオニーは不敵に笑って、その場を後にした。
本当に私を牢に入れたままにするつもりか。遠くで扉が閉まる音がして、さっきまで漏れていた光がなくなると、辺りは一気に暗くなった。
クリスティナ王女は、無実の罪で私を牢に入れるほど、私を憎んでいる。
嫌われていることはわかっていたし、アルテュール様の婚約者になったことを苦々しく感じていたことは理解していたが、ここまでだったとは。三年会わない間に、憎しみを募らせて大きく膨らませたとはいえ、あまりに逸脱しているではないか。
「アルテュール様を殺しそうになったのはクリスティナ王女自身なのに、どうしてここまで私に逆恨みするのかしら」
離宮に閉じ込められたから? 第二夫人が心労で倒れたから?
当時のクリスティナ王女は幼く、毒などの知識がないため、事故ではあったが、事件が事件だった。クリスティナ王女がアルテュール様に渡したカップに毒が入っていたのは、紛れもない事実だ。
幼かったからこそ、その事件をきっかけに周囲の対応が変わったため、誰かのせいにしたいのだろうが、ここまで恨まれる理由がわからない。
王妃様の言う通り、誰かに唆されているのだろうか。
私を牢に入れても、真犯人は別にいるというのに。まるで、前回の毒事件も、私のせいだと言わんばかりだ。
幼かったため、そう思い込みたいのだろうか。やっぱり毒の聖女が毒を盛ったのだと、世間に知らせしめたい。そんな意図さえ感じてくる。
クリスティナ王女はこれ幸いと、私を牢に入れたのだろう。私を牢に入れたところで、アルテュール様暗殺の犯人捜査は続いているはずだが。
「アルテュール様、どうかご無事で……」
犯人が捕まっていないのならば、また狙われるかもしれないのだ。
もし、何かあれば。それが頭によぎっただけで、震えてくる。
私は暗闇の中、わずかな光を頼りにして、檻に触れた。鉄はひんやりとして、私の指先を冷やす。
あれだけ大騒ぎして私の研究室に来たのだ。王や王妃にこのことはすぐに伝わるだろう。早くここから出て、アルテュール様の側に行きたい。
だが、犯人が見つからず、私の研究室にあるヤラーニャに毒のヤラーニャを混ぜられて、私が犯人とされたら。
そう考えるだけで背筋が凍りそうになる。もしも、このまま犯人に仕立て上げられて、閉じ込められたままだったら。
「もし、アルテュール様を狙ったのならば、お側にいなければならないのに」
また毒を盛られないように、側にいて彼を守らなければならないのに。
足の力が抜けて、私はよろよろとその冷えた床に膝を突く。底冷えするその床は石畳で、私の体温を奪っていくようだ。
もう冬も間近。地下の暗がりで上着もないのだから、震えるほど冷えてくる。
真冬でないだけマシだが、指先が痺れるほど冷えてきた。
「寒いわ……」
下水でも流れているのか、雫がぽたり、ポタリと落ちる音が耳に届く。それを聞きながら、鼻につく異臭を我慢して、私は膝を抱えながら、アルテュール様が無事であるという朗報を、震えながら静かに待った。
「リュシエンヌ様!」
誰かが名前を呼んでいる。私は朦朧とする意識の中で、ゆっくりと瞼を上げた。
「リュシエンヌ様! なんてことを。ご無事ですか!? おい、さっさと開けろ!!」
「エルンスト卿……、アルテュール様、アルテュール様は!?」
「リュシエンヌ様、大丈夫ですか!?」
鍵を開けて牢に入ってきたエルンスト卿に気付いて、私は掴みかからんばかりに立ちあがろうとした。しかし、ふらついて、エルンスト卿が急いで受け止めてくれる。
「だ、大丈夫。それより、アルテュール様は」
今、何時頃だ。いつの間にか眠ってしまったようだ。外の光はないため、時間がわからない。ランプの光が揺れて、その光がまばゆくて目が回りそうになって、エルンスト卿にしがみついた。寒さの中にいたせいか、喉が掠れて、私はケホリと咳をする。




