11 幽閉
私は一時的に監視対象になった。連れて行かれたのは普通の客間で、王太子殿下を暗殺した容疑者というよりは、事実関係を確認するための証人のような扱いだった。
ただし、扉の前や窓の外には警備の騎士がいて、部屋からは出られない。
「どうして、こんなことに」
アルテュール様の様子はまだわからず、私は部屋の中をウロウロと歩き回っていた。
侯爵令嬢でアルテュール様の婚約者ということで優遇はされていても、監視がついている時点で、犯人の一人と目されてはいるのだ。一緒にいたのが私だけだったので、仕方のないことかもしれないが。
もし、私がアルテュール様を毒で殺そうとするならば、もっとうまくできるわけだが、今はそんなことどうでもいい。アルテュール様から消した毒はわかっている。だが、それを伝えようとしたが閉じ込められたので、犯人の捜査がどうなっているかもわからなかった。
「遅効性の毒よ。私と会う直前に含んだはずだわ」
私に毒は見えなかった。体内に入り込んでいたのに、毒が見えないとなれば、胃の中で毒になったのだ。
「ヤラーニャ」
ヤラーニャは万能の薬草。けれど毒草になると、さまざまな症状を作ることができた。
「その辺に生えてる雑草だもの。誰だって手に入れられるのよ」
ヤラーニャはストレスを与えると毒草になる。そのため、薬草園では風などで傷付かないように、隣の草と当たらないよう、大切に育てられた。それでもたまに毒を持ってしまう、繊細な薬草。そのため、その辺に生えている雑草のヤラーニャは、ほとんどが毒を持っていると言っても過言ではない。実際それで、クリスティナ王女が毒を手にしたのだから。
私を陥れるために、アルテュール様を殺そうとしたのか。それともアルテュール様を殺すために、私を犯人に仕立て上げようとしたのか。
ヤラーニャは、私の研究室にも保管されている薬草だ。研究室を改めると言って部屋でも捜索されて、ヤラーニャの瓶の中に毒を混ぜられたりしたら、犯人は私に決定だ。
「けれど、私がアルテュール様の側にいれば、毒は浄化できるくらい知っているわよね。アルテュール様を狙ったわけじゃない? エリサ派とか? 私よりエリサをアルテュール様の相手に、なんて思っている人は大勢いるでしょうけれど」
だからといって、アルテュール様を犠牲にしてまでエリサを勧めて、得をする者なんていない。エリサの両親の男爵夫妻は後ろ盾も何もない普通の家で、男爵家にしては貧しい方の部類に入る。けれど、そこに卑屈なところはないうえに、娘が聖女で機関に入れることを嫌がったとか。聖女の仕事は素晴らしいが、若い女性に聖女という重い責を持たせたくないというのがその理由だった。
聖女になれば、国からはそれなりの金が支払われる。機関は国の財産だ。蔑ろにはされない。それでもエリサの両親はそれを嫌がった。普通の令嬢の、普通の生活を与えたかったからと。
ならば、私を陥れたいだけの者の仕業か。だが、毒を考えると、そうとも言えない。
「あの吐血量、ヤラーニャを丸々使ったんだわ」
ストレスを与えたヤラーニャは花から根、すべてが毒になる。花は内臓を壊し、茎は心臓を壊し、根は神経を壊す。そして面白いことに、花と茎を一緒に含むと、中和されたように毒の効果が収まる。だからといって効果がなくなるわけではない。それは一時的で、花と茎の分量によって、花の毒か、茎の毒か、どちらかの毒が増して劇薬になるのだ。
吐血量が多かったことから、花の毒がまさったのだろう。もしも茎の毒が強ければ、毒の効果が効いたときには心臓は止まっていた。
私は背筋が凍るような気がした。
茎の毒ならば、私が毒を消しても、アルテュール様は死に至った。血管が収縮し、ショック死するのだ。
花の毒で良かった。良かったが、それでも内臓が壊死するほどの毒になる。吐血してから解毒したため、内臓に支障が出たのは間違いなく、損傷してからエリサが治療するまで若干の時間があった。私に文句を言っている暇があったら、すぐに治療してくれればよかったのに。あの数秒で、毒の効果が上がってしまった。
「治療が遅かったから、体力は簡単には戻らない。それじゃ、あのときみたいじゃない」
あのとき、クリスティナ王女の紅茶を飲んだとき、アルテュール様は三日三晩が覚めなかった。
あのときも聖女が癒しを施したが、施すまでに時間がかかったため、体力が戻らず目が覚めなかったのだ。
聖女の力をもってしても、即座に治療するのと時間を空けて治療するのでは、患者の回復に違いが起きる。
「私がもっと、気を付けていれば……」
アルテュール様をちゃんと見ていれば、彼の中で毒が滲み出すのをすぐに消せたのに。
毒を消せると言っても、毒の聖女の力は、ただそれだけ。
私に、癒しの力があれば良かったのに。
頬に伝う雫が、ポタリと落ちて、絨毯に染みる。
「こんなときに、側にもいることができないなんて、何が婚約者よ」
無事であれと、離れた場所で祈るしかできないなどと。
私が婚約者に選ばれたのは、毒の聖女だからと言う理由もあったはずなのに。
扉の外で言い争うような声が聞こえて、私は涙を拭い、そちらに向いた。アルテュール様の状況を知らせる者かと思えば、無遠慮に扉が開かれて、兵士たちが入り込んでくる。
「何事なの!?」
兵士たちは無言で、私を取り囲み、腕を取った。
「離しなさい!」




