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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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10 お願い

 毒薬を作れ。と命じられて、はい作ります。とはさすがにならない。

 アルテュール様の提案は、私を毒花の聖女と言わしめるようなものだった。


「毒を作ってほしいんだ。私が飲む毒を」

「お断りします」


 はっきり言いやると、アルテュール様は目を瞬かせた。いや、断られないとでも思ったのか? 断るに決まっているだろう。


「断るのが早くない?」

「相当の理由をいただきたいのですが」

「毒に慣れるためだよ」


 そう言うとは思っていたが、アルテュール様はクリスティナ王女の毒のせいで体の不調をきたしてから、風邪ひとつでも寝込むような体の弱さだ。最近になって体は強くなったと聞くが、それでもおいそれとアルテュール様に毒を与えるなどできない。


「王や王妃様はご存じなのですか?」

「もちろん。リュシエンヌに頼むと伝えたら、全面的に信用してくれた」


 その言葉につい口元が緩みそうになるが、なんとか我慢する。いかんせん、毒の製作依頼だ。アルテュール様に毒を作るなど、婚約者に頼むことだろうか。



「ダメかい?」

 アルテュール様は、犬が耳を垂れ下げて哀願するような視線を向けてくる。そんな乞い方、なんてあざとい。普段は表情を変えないのに、こういうときは眉尻を下げるのだから。


「~~~わかりました。ただし、条件があります」

「何かな?」

「一つ、わたくしの前で飲むこと。もう一つが、含んだ後、一定時間はわたくしと共にいること。これを守っていただけなければ、お手伝いすることはできません!」

「もちろんだよ!」


 アルテュール様の顔が急に晴れやかになって、私はまぶしさに目が眩みそうになる。三年ぶりに会って見る、一番の笑顔が、毒を得られることとは、どんな嫌がらせ。


 私と目が合えば、もう一度口元をほころばせた。なんだか、別人と話しているようだ。

 いや、子供の頃は、もっと表情があった。


 婚約する前、何度か顔をあわせる機会があったが、子供たちだけならば笑顔を見せていたし、私の毒の力にも微笑んで、私の道を示してくれるような優しさがあった。城の中を走ったり、庭園を歩き回ったり、無邪気にとまではいかないまでも、ときおりいたずらっ子のような顔をして、メイドたちをまいたりした。

 そんなアルテュール様が変わったのは、毒を含み体調を崩した後。ベッドから起きれるようになって、アルテュール様にかしずきすり寄る者たちの前では、子供とは思えないほど表情がなく、座った目で応対していて、なんて冷たい視線を送るのだろうと思ったほどだった。


 アルテュール様は王太子殿下として、王を継ぐ者。それは彼一人しかいない。自分がしっかりしなければならない。そんなプレッシャーがあったのか、弱音を吐いたのは二人きりになったとき。

 体調を崩して死に近いと思われ、軽んじられることを知り、自らを立てるために、王太子殿下としてそうしなければならなかったのだと。その強くも悲しい事実に、子供心に苦しさを感じ、私は言ったのだ。


『わたくしの前では、我慢しなくていいですよ。誰にも言いません。

 だから、アルテュール様も内緒にしていてくださいね。わたくし、って言うの、難しいんです。アルテュール様の前では、私って言っていいですか?』


 アルテュール様はベッドの上で、目を丸くさせて、破顔した。


『実は、俺も、私って言うの、苦手なんだ』




「リュシエンヌ? 怒っている?」

「……いえ、怒っていません」

「ならよかった。了承してくれてうれしいよ」


 私の手に触れたまま。アルテュール様は昔と変わらない笑顔を見せてくれる。

 彼の望みはよくわからない。昔の笑顔を見せてくれることにうれしさを覚えながら、私は複雑な思いを持ったまま、ぎこちなく微笑むしかなかった。


 エリサのことはもういいのだろうか?

 私への責任のため? それとも別の理由? クリスティナ王女の茶会でのエリサの顔を思い出す。アルテュール様は私とのことで、本当にエリサを手放すことにしたのだろうか。


 アルテュール様は、誰にも邪魔されたくないと、私と庭園へ向かった。何か話すわけではなかったが、手を繋いだまま、のんびりと景色を見ながら足を進める。まるで、子供の頃のアルテュール様と歩いているような、穏やかな時間が過ぎていく。


 体調の悪いアルテュール様の体力がこれ以上減らないように、足を動かして少しでも外の空気を吸うように、共に庭園をのんびりと歩いた。あの時の記憶が蘇るようで、何だか涙が流れそうになる。あの頃は、アルテュール様だけを思って、日々を過ごしていた。それに応えるように、アルテュール様も私を見つめて緩やかに笑むのだ。


「リュシー」

「え? アルテュールでん……っ、はあ」

「……あのメイドって、いつもああ?」

「め、メイド、です、か?」


 いきなり近付いたと思ったら、アルテュール様は私に口付けて、その近さで問うてくる。メイド? どのメイド? 何のメイドだ!?


「あのメイド。レオニー。前より態度が悪くなっているな」

「そう、でしたか」

「私が部屋に入ろうとしたら、頑なに邪魔してきたからね。入ってみれば、想像通りだったけれど」

「それは……」


 クリスティナ王女が私への嫌がらせに躍起になっているのに、アルテュール様を迎え入れるわけにはいかなかったのだろう。レオニーはなんとかアルテュール様を押し留めようとしたに違いない。

 しかし、前よりとなると、前も態度が悪かったのだろうか。

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