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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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31/63

9−3 迎え

「あら、聞こえないのかしら。耳が悪いのね。ねえ、エリサ様、彼女、耳が悪いようだわ。治療して差し上げて」

「あなた、お兄様専属の聖女様を前にして、メイドの耳を治せと言うの!?」


 クリスティナ王女がいきり立った。すぐさま他の令嬢たちが同じように、私を諌めようとする。


「そうですわ。聖女様はアルテュール様専属の聖女様。メイドの耳を治すなどと」

「エリサ様は町の人々を治療したばかりですわ。それでメイドの治療もできないと言われるの? エリサ様は慈悲のある方。まさか、目の前の弱気を助けぬなど、なさらないでしょう?」


 令嬢はグッと口を閉じる。クリスティナ王女に至っては、歯軋りが聞こえそうなほど、歯を食いしばったのが見えた。


 専属専任の契約から言えば、私の発言は問題になるが、エリサは天然爆発と、『大変ですね!』と立ち上がる。慈悲があるのは間違いない。ただ、状況を精査する力がないだけで。

 だが、そのおかげで、メイドがうろたえ始めた。クリスティナ王女とエリサを交互に見て、私を一瞬視界に入れる。


「疲れているだけかしら?」

「も、申し訳ありません」


 私の言葉にメイドは小声で謝罪を口にする。耳が悪いわけでもないのに聞かぬふりをしたら、それはそれでエリサが何か言うだろう。私の話を聞かなかったことに対してではなく、耳は悪くないと証言することについて、だが。それでもクリスティナ王女は舌打ちしそうな顔をして、メイドを睨みつけた。


「疲れているだけのようね。あなたはもう下がりなさい」

「は、はい。申し訳ありません」


 王女に命じられて、メイドは逃げるように去った。クリスティナ王女は憎々しさを隠しもせず、私に向き直す。


「毒花の聖女ですもの、あのメイドが聞いていなかったからと言って、毒でも与えたのではないの?」


 クリスティナ王女は引き攣りながら、笑いを見せた。良い攻撃を思いついたと言わんばかりに、下卑た笑いをする。それで王女なのかという悪役の笑い顔だ。

 この王女は、一生私にその態度を続ける気なのだろう。アルテュール様の婚約者を外れたら、攻撃は増すはずだ。


 クリスティナ王女がどこに嫁ぐかにもよるが、身分上、私は彼女に勝つことはできない。誰かの介入があれば避けられるかもしれないが、その助けは得られないだろう。それが、今の私の立ち位置だった。


「クリスティナ殿下は、わたくしが自分の力を悪用するとおっしゃりたいのですか?」

「それくらいできるのでは? というお話よ。間に受けないでくれる?」

「それならよかったですわ。わたくしは国の要請で研究を行なっておりますから、悪用と言われれば、その任を辞さなければなりません」

「けれど、毒を作って動物を虐待していたと言うじゃない。似たようなことはやっているのではなくて?」

「まあ、虐待ですか? どなたからのお話なのか、伺いたいですわね」

「噂が耳に入ってくるだけよ。噂されているのならば、そうなのかも、と思っても仕方ないのではなくて?」


「クリスティナ殿下、わたくし、エリサ様にも同じことを申しましたが、実験にはどうやっても毒に侵された個体が必要になります。辺境では騎士が足りなくなるほどの魔物が現れるため、それらを毒で殺す必要があるからですわ。騎士でもない者が襲われても、その毒で対応できるように」

「聖女様がいらっしゃれば、すぐに癒せますわ!」


 令嬢が助け舟を出そうと、口を出してくる。なぜか皆、同じことを考えるのだが、言っている意味がわかって発言しているのだろうか。私はその令嬢に向き直した。


「では、あなたは、傷付き倒れた者を癒しの聖女様に癒してもらい、再び戦いに行けと言われるのですね」

「それは、もちろん。それが騎士のさだめですわ!」

「では、強靭な魔物を前にして、手も足も出ない場合でも、癒しを施し、再び死地に送ると言われるのですね」


 そこまで言えば、令嬢は意味が理解できたと、サッと顔色を悪くさせた。


「騎士たちはまた戦いに行きますわね。しかし、圧倒的な数にまた傷ついてしまいます。それを永遠に繰り返せと言われるならば、彼らはそうするでしょう。それが使命と言うならば」

「失礼ではなくて。そのようなことは言っていないでしょう!」


「いいえ、クリスティナ殿下。令嬢はその想像ができておらず、当たり前のように癒しの聖女様の力で問題が解決すると考えているのです。実際はまったく違います。騎士たちが集まっても倒せない魔物がいる、もしくは、連戦で普段の力を出せない場合、毒を使えばどうなりますか? わたくしの仕事は、騎士たちにその力を足してあげることです。毎日のように戦う騎士たちの、その厳しい日々を、少しでも楽にするために、毒を渡すのです。早めに倒せるに越したことはございません。癒しが有用でも、その前に倒せば癒しの力も少なくて済むのです」


「それが、実験と何の関係があるのよ!」

「わたくしがいなくとも使用できるように、研究し毒を作るのです。わたくし以外の者が作っても、それなりの効果が見込めなければなりません。クリスティナ殿下、聖女の力は、永続的ではございません。わたくしの力が尽きた時に、彼らが倒れることがあってはならないのです」


 私の言葉に、布の擦れる音すら響くほど静まり返った。

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