9 迎え
私を混乱の渦に沈めるのは、彼の一つ一つの行動で、振り回されたまま、答えが出ない。
どうしてあんな真似を。
エルンスト卿が私にかしずくのを見て、浮気をしているとでも考えて、釘を刺しに来たのだろうか。
アルテュール様は悪びれることなく、ただ細目にして、私を見つめるだけ。その表情には、自嘲するような笑みと苦虫を噛み潰したような雰囲気を混ぜている。けれど、愛しげにも見えるような複雑な気持ちも浮かんでいて、私を混乱させた。
よくわからない表情をしていると思えば、何度も私の唇にアルテュール様のそれを重ねてくるものだから、私はその口付けを理解できないまま受け止めるだけ。
アルテュール様の望みは、私には想像もつかない。
それなのに、混乱しながらも受け入れてしまう私がいけないのだろうか。本当に愛されていれば幸せなのにと思いながら、その熱は拒めないのだ。
私はため息を吐きたい気持ちであの時の熱を思い出しては、その記憶を頭の奥底にしまい込む。
馬車はカラコロと王城の中を走り、目的地に着くと、颯爽とエルンスト卿が降りて手を差し伸べた。
「ありがとう」
「どうか、お気を付けください」
これから行く場所を前にして、お気を付けくださいはよろしくないのだが、私もエルンスト卿と同じ気持ちだ。私を迎える者を前にして、私はエルンスト卿に頷きその手を離す。
これから、クリスティナ王女とのお茶会である。
本当、気を付けないと。
クリスティナ王女からのお茶の招待に、断りたいと思ったのは言うまでもない。
クリスティナ王女とその友人たちが同席するお茶会。碌でもないことが目に見えている。
「お待ちしておりました」
クリスティナ王女の侍女が部屋の前で私を迎えた。辺境に行く前からいた侍女で、確か名前はレオニーと言ったか。クリスティナ王女の後ろで澄まして控えている人だが、私を見る目は冷ややかで、クリスティナ王女以上に嫌われているのを感じていた。
クリスティナ王女に同調しているのだろう。主人と同じように私への嫌悪感を隠しもしない。毒の事件の頃にはまだクリスティナ王女についていなかったため、クリスティナ王女についてから毒事件の話を聞いたのだろう。クリスティナ王女側からの話ならば、私を悪役に仕立てて話していてもおかしくない。
今日も同じく、見下すような視線を受けて、本日の茶会がさらに憂鬱になった。
レオニーは扉を開く前に、なぜか手を止める。
「どうぞ、ごゆるりと」
扉が開かれて、私は彼女の声に反応しかねた。別に嫌味を言われたわけではないが、嘲笑うような言い方が嫌な気分にさせられる。少しだけ上がった口元。いかにも、何かありそうな雰囲気を出して、私を促した。
私は部屋に入り、スカートを摘んで礼をする。その礼の途中から、茶会に呼ばれた令嬢たちのざわめきが耳に入った。
「嫌だわ。毒花よ」
「毒を入れられるんじゃないかしら」
最初から失礼にも程がある発言だ。想像していた以上に、明らかな悪意を突き刺してくる。私をアルテュール様の婚約者と思ってもいないのだろう。王太子殿下の婚約者相手になんて言い草。そう言えればよかったが、私を謗るために集められた令嬢たちに口を噤めと言っても、逆燐に触れたように姦しくなるだけなのが目に見える。
それでも、気を引き締めなきゃ。ここで負けるにはいかないわ。
「ご招待いただき、ありがとう存じます」
私は嫌味を無視して挨拶をしてから、私は茶会のメンバーを軽く確認した。コソコソと話す令嬢たちの他に、最も面倒な人がクリスティナ王女の隣を陣取っている。
もう、私に笑顔を見せるのはやめたのか、体を強張らせて私を見つめているエリサがいた。
「皆様もご存知の通り、毒花の聖女ですわ。三年も辺境にいて、社交に出るのはほとんどなかったようなので、皆様、良きお手本になって差し上げて」
クリスティナ王女の言葉に、令嬢たちの冷笑が重なった。
すべてとは言わないが、これが都での私への評価なのだろう。
辺境で三年を過ごしたのは事実で、社交界に出られなかったのも事実だ。王妃様にまで謝られたのだから、社交界に存在を示すための三年を失ったのは、私にとって大きな不利益となった。
だからと言って、黙っている筋合いもないが。
「だから、思ったことをすぐに口に出してしまうのは?」
一人がポソリと言って、隣にいた令嬢がクスリと笑う。周囲もそれに倣ってクスクスと笑い始めた。
何のことを言っているのか、私を含め、皆はわかっていたが、エリサはわからないのだろう。会話についていけず、笑っている令嬢たちを怪訝な顔で見回す。
嫌味を言いたいならば、周知しておけばいいのに。この場でもっとも社交界に向いていないのが、エリサではなかろうか。
「何の話ですか?」




