表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/56

8−4 訪問

 それはやけにこそばゆく、その触れられたところだけ、急速に熱を持った。


「あの、アルテュール殿下」

「聖女が、邪魔したようだ」

「え? いえ、邪魔などと。怪我をした人々を癒していました。彼女は彼女の仕事をしただけですわ」


 アルテュール様の専属の聖女が、町中で民に癒しを行うことが、彼女の仕事かどうかは知らないが。

 専属専任の契約であるのに、あの場合どうなるのだろう。エリサの責になるのだろうか。

 私はそれを考えながら黙っていると、アルテュール様は手を重ねたまま、軽い力で握った。


「あの護衛……。君は彼のことが好きなの?」

「は?」


 何を突然。無遠慮な返しをしてしまったほど、脈絡のない言葉だ。アルテュール様は私を射るように見つめて、その視線を外さない。咎めるような目ではなかったが、本気で疑っている目だった。


 何よ、それ。


「なぜそのようなことを。わたくしは彼を信頼しておりますが、その信頼における好意は、恋愛の類ではございません」

「でも、好意は持っているんだね」

「好感が持てると言っているのです。わたくしの護衛として、真摯に仕事をまっとうする者を、なぜ好意的に受けないとお思いですか?」


 自分のことを棚に置いて、私にも同じように相手がいると疑うのか。

 冗談ではない。離れていても私はアルテュール様を思っていたのに、自分に思う相手がいるからと言って、私まで同じだと言うなんて。


 無性に腹が立って、私はその手から逃れようとした。けれどアルテュール様は逆に強く握って、離そうとしない。

 それどころか、その手をそのまま口元に持っていくと、その柔らかな唇を私の手の甲に押し付けた。


「アルテュール殿下!?」

「君の護衛は、何もないのに手に口付けていたのに?」


 言われて私はカッとした。エルンスト卿が私にかしずくのを見ていたのか。


「あれは……」


 エリサがチヤホヤされていたのを気にしているのではと、慰めてくれただけ。

 それを、アルテュール様に言うのか?

 私が、エリサの姿を見て、卑屈になっているかのように、気落ちしていたと?


 それだけは嫌だ。まるで自ら負けを認めるみたいではないか。それを口にしたら最後、卑屈になってエリサに嫉妬していると思われてしまう。そんなこと思われたくない。そんな醜い心を持っていると思われたくなかった。

 私は何も悪いことをしていないのに、自分が悪いと言っているようなものだ。


 私が黙っていると、アルテュール様はその薄青の瞳をすがめた。アルテュール様は私の手を絡め取ったまま、口付けられるほど側に手を寄せて、今度は力強く引っ張った。


「きゃっ」


 急に手を引かれて、私はバランスを崩すと、ボスンとアルテュール様の胸に受け止められる。ふわりとウッディな香りを感じて、あの日を思い出しそうになると、急いでその体を離そうとした。

 けれど、アルテュール様の見下ろす、その冷たい視線と目が合って、私の体は硬直した。


 降り掛かるような凍る視線。なのにそれは近付いて、長いまつ毛が頬に落ちることで、遮断された。

 咄嗟につぶった自分の目は闇しか写さなかったが、自分の唇の、その温もりに、私の背はぞわりと粟立った。

 何が起きたのか、一瞬わからなかったからだ。


「ある、」

「黙って」

「んっ」


 催淫剤。その言葉が脳裏に浮かんだが、そんなものはここに存在しないはずだ。

 ならば、どうして、アルテュール様は私に口付けているのだろう。


 吐息と共に離れた唇が、再度私の口を塞ぎ、生ぬるい温度が私の唇を温める。

 それが同じになったとき、アルテュール様はゆっくりとその唇を離した。

 濡れたその朱の艶やかさに、私は心臓の音が耳元まで届くようだった。アルテュール様はそっと自分の唇を親指でなぞり、ぺろりと舐めて、緩やかに微笑んだ。


「なんで」

「何で? 自分の婚約者に口付けるのはいけない?」

「なっ」


 私はカッと羞恥する。今まで、手紙の返事もよこさなかった人が、それを言うのか。


「わたくしは、婚約破棄を、」


 されるのかと思って。そう言おうとしたのに、アルテュール様の腕は私の腰に絡まり、当たり前のように引き寄せて、その口を塞ぐ。

 息が触れて、私が乱れることを喜ぶように、耳元に口付ける。


「アルテュール殿下!」

「私は、そのつもりはないと言ったよ」


 どうして。


 私のその問いは、再び覆われた唇によって、封じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ