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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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8−3 訪問

 だが、毒の聖女は危険だ。殊に幼い場合は、善悪に区別がつかない。知らず毒を与えては困ると、周囲は私を危険視した。お母様がお茶会に呼ばれなくなる。お父様が会議に参加でもすれば、私の毒の力をどう使うのかと陰口を叩かれた。そんな両親の立場も知らぬまま、私は毒の聖女として王との謁見を許された。


 齢、六歳の話である。

 しかし王は、私の能力に興味を示しながら、王太子殿下であるアルテュール様を私に紹介した。


 私は危険性についてまったく意識していなかったが、周囲は違う。アルテュール様も毒の聖女について理解していなかっただろう。周囲は恐れた。王城に行けばわかる。毒花の聖女が王子と一緒にいる。危険だ。王はどうかしている。死んだらどうする。何かあったら。


 子供だからって何もわからないわけではない。大人たちの声や雰囲気で、よくないものであるとすぐに察する。アルテュール様は私の側でそれを耳にして、耳を塞ぐ私の手をとって、そっと握ってくれた。


『リュシエンヌ。君の力は素晴らしいものなんだよ。その力には人を助ける力があるんだ。悪いものを倒して、みんなを危険から守ってくれる。だから、背筋を伸ばして、堂々とするんだ。君は何も悪くないし、悪さもしていない。君の力は誰のものでもなく君のもので、誰の迷惑もかけていないのだから』


 アルテュール様は私の背を押してくれた。一歩、一歩。この人の側なら、怖くない。囁く声、値踏みする視線。嘲笑して、穿った視線を向けてくる。そんなのは無視していい。何も悪いことはしていないから。

 一つ年上のお兄さん。私はアルテュール様の背を追って、いつの間にかその姿に惹かれ、隣に立てることを願った。


 婚約が決まったのはその後。けれど彼の前の精悍な顔は鳴りを潜め、ベッドで浅い呼吸を繰り返し、生命感の薄さを感じさせるような体になってしまった。


 私がもっと早く、毒に気付いていればよかったのに。

 だから、側にいる。もう二度と、毒なんて受けないように。


 一緒にいるから。


「一緒に……」


 けれどそれも、もう私の役目ではなくなってしまったのだ。


 カサリと音がして、私は重い瞼を上げた。

 ふと来た道を見やれば、誰かがこちらに近付いてくる。


「アルテュール様?」


 アルテュール様のことを考えていたから、幻でも見えているみたいだ。だが、近付いてくる影が明らかになって、私は急いで立ち上がった。


「アルテュール殿下、どうして、こちらに!?」

「ゆっくりと話す時間がほしかったから」


 アルテュール様は、ガゼボから出ようとしていた私を止めるように、入り口を塞いだ。

 アルテュール様一人なのか、護衛の誰もいない。

 侯爵家の庭園で何かあるわけではないが、それでも一人で来ることはないだろう。


 後ろに誰かいないのか確認したのがわかったのか、アルテュール様はフッと微笑んで、誰もいないよ。と囁くように口にする。

 その言葉に、なぜか色気を感じた。


 何だか、雰囲気が違う。エリサと一緒にいるときより、表情があるというか。エリサがいないため、気を抜いているのかもしれない。それで色気が伴うのも、困るのだが。

 ガゼボはそこまで広くなく、中心のテーブルのせいで、アルテュール様から離れるのは難しい。それが良いと言わんばかりに、アルテュール様は私に座るよう促した。座ればガゼボの半分は埋まるので、離れてほしいのだが、ぴったりと横に座ってくる。


「あの……」

「昨日、あの後、魔物の件で騎士団に呼ばれたそうだね」


 アルテュール様は私の手に触れて、私を下から見上げるように話してくる。

 こんなふうに話す姿を見るのは三年ぶりだ。子供の頃、私には俯く癖があって、その顔を見るために、アルテュール様はこうやって下から私を見上げていた。


 海に浮かぶ氷のような、浅い水色。昼間だと周囲の明るさでその色に見える。長いまつ毛を頬に落とすと、もう一度上げて、その瞳を私に向けた。


「町全体に力を使ったと聞いている。薄紫の光が町中に降りかかったと」

「毒は魔物だけに効くものです。人や植物など、その他のものには影響はありません」

「それは素晴らしいことだけれど、言いたいことはそれじゃないよ。めまいで倒れたと聞いた」

「倒れたなどと。ただ少し、目が回っただけで」

「リュシエンヌ」


 少し強めに名を呼ばれて、私は口を閉じる。

 怒られるのだろうか。勝手に毒を撒いたから。苦情があったのだろうか。危険ではないかと、不安の声が上がったとか?


 アルテュール様は私を食い入るように見つめてから、ため息のように大きく息を吐く。

 それに、つい反応しそうになる。


 アルテュール様の機嫌を損ねたのか。それとも呆れられたのか。私が婚約者のままで気分を害しているのか。

 もう子供の頃と違い、婚約者だから仲良くしましょうという、無邪気な時期は終わったのだ。

 無条件で愛されることなんてない。アルテュール様にとって私は過去で、エリサの前では邪魔な存在だ。

 余計なことをするなと忠告を受けるのか。めまいで倒れるなんてあざとい真似をしたのかと誹られるのか。


 身構えていると、アルテュール様はなぜか触れていた手を自分の掌と重ねて、指を絡めてきた。

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