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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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5−2 王女

 癒しの聖女は、白銀の盾、——機関に所属している。機関は王の下に位置するものではなく、独立した組織だ。王の命令に寄り添うことはあっても、絶対ではない。

 エリサはそんな機関から、王太子殿下専属専任として派遣された聖女だ。そこには事細かな契約があり、その契約に沿った金額が機関に支払われる。城で働く他の癒しの聖女は一般契約になり、その金額は専属専任と大きく違う。


 王妃様は口にはしないが、第二夫人にエリサを使ったのだろう。アルテュール様の専属でありながら別の者にエリサが癒しを与えれば、違約金かそれなりの金額が科される。第二夫人の性格から、それを知ったならば金額を支払ったはずだ。王にも伝え、その罰を受けるだろうが、王妃様の様子を鑑みるに、第二夫人は知らないのではないだろうか。これは暗黙の了解で、エリサは無償で第二夫人を助けたのだろう。


 王妃様たちもまた、そうではないかという疑いを持っているが、証拠がない。エリサを使ったということも憶測でしかないため、黙認したというところか。


 クリスティナ王女はその恩を感じ、エリサに傾倒しているわけだ。アルテュール様もエリサに好意的。エリサはアルテュール様を慕っているだろうから、クリスティナ王女がエリサの肩を持つのは道理だ。

 私を嫌っているクリスティナ王女が、エリサを後押しする理由はそれなのだと理解する。


 ただ、これは私の想像でしかないが、エリサは私にも体調の良し悪しを聞き、癒してあげると言ってきたところから、本来は不可とされていることをエリサ本人は気にしていない。専属専任の契約がどうなっているのかわからないが、露骨に行っているとエリサ自身にもペナルティが科されるのではなかろうか。


 それは、私の知るところじゃないけれど。


「アルテュールの体も随分丈夫になったのよ。昔は剣を握る姿なんて想像できなかったけれど、エリサのおかげでとても助かったわ」

「それは、暁光でした」

「エリサのことだけれど、あれほどの力を持っている者はいないから、アルテュールの専属にしたのよ」

「承知しております。継承権を持つお方はアルテュール殿下お一人。能力のある癒しの聖女を専属にするのは、理に叶っております」


 それについては同意だし、反対意見も持っていない。エリサもまた百年に一度の逸材と言われている、力のある癒しの聖女だ。

 アルテュール様と年が近いことも仕方がない。仕方がないのだ。そう思わなければならない。私が口出すことではない。


 けれど、もしも立場が逆だったのならば。そんなことを考えてしまう自分が、あまりにも愚かだった。側にいるから。アルテュール様を支えているから。アルテュール様がエリサに惹かれる理由は、それだけとは限らないのに。


「あら、良いところに来たわね」


 王妃様の声に、私は視線の先に首を振った。やって来たのはアルテュール様だ。私は立ち上がり、礼をする。

 どうしてここに。まさか、あの日のことをここで蒸し返すとか? 王妃様の前で?

 それとも、婚約破棄をしたいと言いに来たとか?

 それを考えるだけで、胃の中にドスンと重しが入ったような痛みを感じた。


 私はアルテュール様に手紙を書きながら、いつもそんなことを思っていた。婚約破棄をしたいと返事が来るのか。それとも直接言いに来るのか。遠く離れた辺境で、手紙が来てほしいと思いながら、けれどここまで届かないのならば、もう届かない方がいいのではないかと思っていた。


 だって、婚約破棄をしたいと書かれていたら、立ち直れない。

 それが、今なのか。


「侯爵家に使いをやったのですが、こちらにいると聞いたので。私の婚約者をお借りしても?」

「仕方がないわね。リュシエンヌ、またお茶をしましょう」


 王妃様は言って、席を立つ。二人きりにされて、私は居心地が悪くなった。会うのはあのとき以来だ。どうあっても、あのときのことが頭によぎってくる。アルテュール様の肉体美とか、自分って変態だったのかと思うような、あれなことも頭の中を駆け巡って、ついでに肌の合わさった温もりや香りまで、まざまざと蘇る。


 なのに、婚約破棄のことも頭によぎり、恥ずかしさも苦しさも相まって、胸や胃が締め付けられて、気持ちが悪くなってきた。


「リュシエンヌ」

「は、はい!」


 余計なことを考えていたので、つい声が裏返る。私は何でもないように、なんでしょうか。と澄まして言ってみせた。恥ずかしい。恥ずかしいのに、頭から消えない。消えないし、次に来る言葉を聞きたくなかった。あの日のことを反復しながら、婚約破棄を言い渡されるとか、どんな拷問なのか。


「庭園に行こう」


 伸ばされた手を、私は複雑な気持ちで取った。あのときと違い、やけに冷えていて、一瞬で心の中に吹雪が吹き荒れた。きっとこれから告げられるのだろう。あの日のことは陰謀で、私と婚約破棄したいと。

 私から、あの日のことはなかったことにしようと言うべきか、なんて考えていたのに、やはり口にできない。こうやってアルテュール様を前にして、恋心は再燃し、冷たい手に誘われようと、その心も凍えていようと、私はこの手を離したくないのだ。


「さっき、第二夫人がクリスティナを怒って連れて行くのを見たけれど、何かあったの?」

「それは他愛無い話で、わたくしがクリスティナ殿下の機嫌を損ねただけですわ」

「そう。……離れてくれる?」

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