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毒花の聖女は無愛想婚約者に愛でられる  作者: MIRICO


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5 王女

 扉の前で、私は一呼吸する。アルテュール様とはまた違った緊張を持って、扉が開かれるのを待った。


「リュシエンヌ。よく来てくれましたね」

「王妃様におかれましては、ますますのご壮健喜び申し上げます」

「かしこまらなくていいのよ。お座りなさい」


 私は促されて席に座る。すでに席には王妃様の他に二人、第二夫人とその娘、クリスティナ王女が座っていた。

 アルテュール様のことを追求されるのではと、気が気ではなかったが、二人がいることによってただのお茶会だと安堵する。

 いや、安堵するには早いか。クリスティナ王女が剣呑な光を瞳に灯して、私を睨みつけていた。それに気付いているだろう、第二夫人は、クリスティナ王女を咎めるように横目で見ながら、申し訳なさそうに私に微笑んだ。


 第二夫人はおっとりした方で、クリスティナ王女とは正反対の性格である。体の弱い方だったはずだが、昔に比べて体がふっくらした気がする。前はガリガリに痩せていて、皆が心配する細さだったのだ。今でも細身だが、三年前よりずっと肉がついたように見えた。

 クリスティナ王女は前に比べて大人に成長したが、その分眼光が鋭い。気の強さも増したに違いない。パーティの突っかかり具合から、間違いないだろう。


「三年もの間、辺境で過ごさせたこと、申し訳なく思っているわ。本来ならば妃教育は王宮で行い、アルテュールと共に学園に通うはずだったのに」

「王妃様の計らいで、妃教育も学びも、辺境の城で行わせていただきました」

「とても真面目に行っていたと聞いているわ。その中で魔物との戦いでしょう。毒の聖女が他にいればよかったのだけれど」


 王太子殿下の婚約者だろうが、国を守るのが王の仕事だ。子供だからといって、毒の聖女を使わない手はない。だから、私が辺境で魔物退治に駆り出されるのは、個人の意見で語られるものではなかった。毒の聖女の参加は長く望まれていたと聞いている。私がもう少し早く生まれていれば、もっと早く呼ばれていただろう。


「あなたが無事で本当に良かったわ。アルテュールも寂しい思いをしていたでしょう」


 その言葉に、私は微笑む。そうだったら良かったけれど。王妃様も私がアルテュール様とうまくいっていると思っているようだ。二年以上手紙も届かなかったのに、アルテュール様が寂しかったはずがない。


 王妃様と私が話しているのを、第二夫人はにこやかに静かに聞いていた。隣でクリスティナ王女は紅茶を口に付け、澄ましている。しかしゆっくりとカップを置くと、クスリと笑った。


「お兄様には聖女様がいるから大丈夫ですわ。王妃様」

「クリスティナ!」


 すかさず第二夫人がクリスティナ王女の名前を呼び、咎めるような声を出した。


「本当のことですわ、お母様。お兄様は聖女様にとても信頼を置いていて、聖女様もまた、お兄様を信頼されています。まるで、恋人同士のように」


 クリスティナ王女は鼻で笑うように、私を横目で確認する。


「その昔、毒の聖女は婚約者の王子様を殺したじゃありませんか。不吉で仕方ないと思うのですけれど」

「クリスティナ! 申し訳ありません、王妃様、リュシエンヌ様。本日はお誘いいただきましたが、クリスティナは錯乱しているようです。申し訳ありませんが、お先に失礼させていただきます」

「お母様、そんなっ」

「失礼致します。立ちなさい、クリスティナ」


 第二夫人は王妃様の許しを得ると、席を立った。明らかに不服を見せるクリスティナ王女は、第二夫人に促されながらも私に見下すような視線を向けると、王妃様にだけ挨拶をして背を向ける。

 扉が閉まり、シンと静まり返ってから、王妃様がホウ、とため息を吐き出した。


「あの子は、未だあなたを逆恨みしているのね」


 私はそれに返事をせず、曖昧に笑う。

 クリスティナ王女は私を嫌っている。それは昔から同じ。原因は、クリスティナ王女によって起こされた、事故のせいだ。


「誰かに唆されているようにしか思えないくらいなのよね。彼女はそんな真似はしないし。三年の間で忘れたかと思ったら、前よりひどくなっているように思うわ」


 彼女、——第二夫人は、私に好意的だ。むしろ私にかなり気を遣っている。あの様子からクリスティナ王女に注意をしているようだし、第二夫人が唆しているわけではない。


「クリスティナ王女は、聖女エリサをことさら気に入っているように見受けられますが、そのあたりも関係しているのでしょうか」

「……病がね、ひどかったのよ」


 王妃様がメイドたちを下がらせて、そんな話を始める。王妃様と第二夫人は仲がいい。第二夫人の子供が娘だったこともあるかもしれないが、王妃様は第二夫人の線の細さを気にして、健康面でも気遣いを見せていた。第二夫人は体が弱く、クリスティナ王女を産んだ際には、命に危険があったほどだったからだ。

 癒しの聖女から治療を得たりして命を取り留めたが、それでも体は弱いまま。そんな中で、クリスティナ王女が起こした事件により、神経をすり減らせて、さらに体調を悪くする。

 私が辺境に旅立ったすぐ後は、風邪をこじらせて一時期ベッドから起き上がれないほどになったそうだ。


「だんだん弱々しくなっていくものだから、癒しの聖女や医師を集めてね、治療を進めていたのだけれど、体の弱さばかりはどうにもならないわ。癒しの聖女も万能ではないし、医師にもできることは限られているから。けれど、……回復したの」


 含みのある言葉に、私は黙ったままにした。王妃様は遠い目をして、複雑そうに小さく首を振る。

 それでなんとなくは察した。

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