4−3 事後
「それが手伝いよ。できないのならば、別の人に来てもらうわ。それと、人道的ではないと言うけれど、わたくしの研究は対魔物であって、人間に与える毒ではない。人に影響のない毒を作るの。殺虫剤みたいなものよ。扱いを間違えれば人にも影響はあるけれど、人を殺したいという悪意に関してわたくしが責任を負うことはない。もちろん、あなたたちにもね」
二人は納得していると頷くが、ビートは私を親の仇のように睨み付けてくる。
辺境では命に直結するため、魔物を殺せるならばなんでもやってみせるという気概があったが、王城ではその意識も薄い。魔物を殺す毒だと言っても、毒のイメージは対人間だと思い込んでいるのだろう。
殺虫剤だって、大量に口に入れれば死に至る。その辺に咲いている毒花だって、簡単に人は殺せる。要は扱い方だ。私が作る毒は魔物に効果があり、人への効果は薄い。そういう毒を作っている。その毒を作ることが悪だと言うならば、剣を作る者も悪だろう。
「嫌なら出ていくのね。エルンスト卿、サンプルを並べてちょうだい。まずは寄生型の魔物だけを毒で殺してみるから、そこから毒の成分を練りましょう」
「わかりました」
エルンスト卿は慣れていると、サンプルを並べる。動物は小さいものがネズミで、中型は猫、そして大型の犬になり、各々檻に入っていた。動物は黒い物体に足や顔を覆われていて、溶けたり奇形になったりしている。精神は魔物に侵されているので、檻の中でひどく暴れて、高音の鳴き声を発した。匂いもドブ臭く、研究室が異様な匂いに包まれる。
それを察したか、エルンスト卿がすぐに窓を開けてくれた。
「ありがとう」
「いつもはもう少し広い部屋でやってましたからね。こんな狭い部屋じゃ、臭くて息もしたくなくなる」
「こちらの魔物は小さいからね。仕方がないわ」
床が汚れるので高価な絨毯や調度品はいらないと伝えたため、部屋の中はずいぶん質素になった。これくらいでなければ、実験するのに気が散ってしまう。
私は檻の上から、さっと手をかざした。ただそれだけで、サンプルの動物がさらに動き回り、苦しむように断末魔のような鳴き声を上げた。その声に研究員たちがびくりと肩を上げる。
寄生された動物はヒクヒクして倒れ込んだ。ビートが、うわっと悲鳴を上げる。ラチェットとニーネは体を強張らせた。私はそれを耳にするだけで、サンプルを見つめた。それから間もなく、寄生されていた犬が起き上がる。次いで猫、ネズミと起き上がって、寄生していた魔物は動物から離れると、水がなくなった葉っぱのように、干からびて粉になった。
「まあ、こんなものね。魔物自体に毒を注入すれば、動物に影響はないかしら。外側に現れている状態ならば、対処はできそう」
「問題は、完全に同化した場合ですか?」
ニーネが冷静に問うてくる。理解が早くて助かる。
「それに関しては、おそらく無理だと思うわ。寄生が母体を乗っ取ってしまった場合は、もう魔物なのよ」
「でしたら、早いうちに寄生型だけ倒すんですね」
「そうなるわ。ただ、動物たちから魔物は切り離せても、動物自体に既に魔物の影響があるから、体調を戻すには長い治療が必要になるわ」
「治療用の薬剤を注入しますか?」
「そうしてくれる?」
エルンスト卿は護衛ながら、当たり前のように薬草を混ぜて、手慣れた手付きで動物たちの口に薬剤を注入した。それを漠然と見ている研究員たちに、これからあなたたちにやってもらうから。と伝えておく。最初は寄生された動物を見るのでさえ、おどろおどろしいと感じていたようだし、面食らったことだろう。辺境に行く前であれば、私もそうだったはずだ。
「さ、これからがあなたたちの仕事よ。今のわたくしの毒を、あなたたちに作ってもらって、サンプルに試してもらうわ。状態を記録して、いくつかの毒を試しましょう」
「毒をどうやって作るって言うんですか」
ビートは吐き捨てるように言う。
「わたくしは自分の毒がどんな成分を含んでいるかわかるわ。ただ、それをどうやって調合するのかということ。自然で取れるものがあればいいけれど、そうでない場合は代替品が必要になる。それらをどう行っていくか。また、わたくしが作る毒と、あなたたちが作る毒の効果が違うため、量などを調節しなければならないということ。少量から試して、分析するのよ。そのためのサンプルだわ。さ、話している暇はないわよ。始めましょう」
私は何の毒を使ったのか、紙に書き記し、そこから薬草や鉱石などを集める。すでに棚には数種類のものが貯蔵されている。これは当初から依頼しておいたものなので、まずはここから使用する。なければ商人に頼む。一概に毒と言っても、治療に使う薬草もその一部だ。毒も薬になるのだからそれは当然で、治療用の薬草は機関に依頼した。毒の聖女は機関に所属していないが、そこは聖女の使う薬草なので、関わることができる。毒の聖女がもっとたくさんいれば、機関に入っていただろう。
研究員たちが動き出す。ラチェットとニーネは素直に言われた通りをこなそうとするが、ビートはどうにも納得がいかないらしく、動きが緩慢だ。仏頂面で材料を計っている。その様子を横目で見れば、エルンスト卿は護衛に回って、三人を見張るように扉の前で待機した。
研究員が動かないため率先して動いてくれたり、彼らの動きを確認してくれたり、護衛としては失格かもしれないが、私にはありがたい行動だ。
辺境でも最初から私を信じてついてきてくれた。彼が王城まで来てくれたのは、私にとってうれしい限りだ。
いつでも私のために動いてくれるのだから、感謝しかない。
足らない素材もあったが代替品で毒を作り、個体に振り掛け、分析するための項目を告げているとき、ノックの音が部屋に響いた。




