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第9話 苦労のセリーヌ



 おばば——ゆう子は言った。

『水漏れがわかったんはよかったけど、あんたさんは明らか水使いすぎや。やから、ペナルティや』

 おばばは次の台詞に詰まった。ペナルティなんて格好付けて言ったものの。何をさせるかさっぱり決めていない。さて、何をさせようか。

 セリーヌは令嬢だったようだから、自室の掃除すらできるか怪しいようにすら思えてくる。が、掃除をさせたところで、罰にしては弱い。

 せめて彼女がひいひい言っているところを見なければ。そう思った時、閃いた。神からのお告げにすら思えた。

 自分がやってしんどいことをさせたらいいのだ。最近は足腰もしんどくなり始めて、いよいよおばばも人並みに『老い』を感じている気になり始めていた。実際どうなのかは重要ではない、おばばだってしんどいのだ。

 溜めに溜めて、おもむろに口を開いたおばばが言ったこと。

『セリナ、あんたさんには庭の雑草全部抜いてもらうで』


「てやっ!とぅやああああ!らああああ!」

 草原の上を駆け抜ける、白銀の一振りの刃。——ではなく、太く長い一本の枯れ枝。

 セリーヌの厨二病は、既にこの域にまで達していた。こうして伝説というのは幕を開けるのだ。異界より使われし救世主、セリーヌ・エカテリーネ。

「わたくしの奥義を出すほどの相手ではなかったようですわ。おほほ、あなたもまだまだですのよ! いきますわ、奥義——龍殱りゅうせん!」

 なお、草刈りは遅々として進まない。葉先が少しちぎれて飛んでいたくらいだ。

「はあーーーあああぁぁぁぁぁあああああ!」

 勢いよく振り抜かれた枝は、オヒシバなどに絡まって速度を落としつつも、なんとか振り抜ききられた。

「セリナ、黙って聞いとればよーさん叫ぶなあ。静かにせんかい」

 セリーヌは、やめるつもりが欠片もなかった。だって楽しいから。そして彼女はまあまあ素直だった。

「おばば様もやりませんの? これ楽しいですわよ」

「あんたさん、草抜き終わるまで昼ごはん抜きにしとったるわ」

 セリーヌは真顔になり、直ちに枝を捨てた。


「ふう……。なかなか、っ……根っこが硬いっ、ですわね。抜いても抜いても終わらないし、暑いですわ……」

 最初にふざけた分の疲労も相まって、彼女はすっかりふらふらだ。おまけにもう、空がオレンジ色に変わっている。

「これが終わったら、わたくしは何食食べるんですの……? おなかが、おなかが空きましたわ……」

 お腹はもうぐうとも言わない。彼女は黙々と草を抜き、ひとかたまりにして所定の位置に積み、それを繰り返した。それだけだった。

 彼女はようやく戸口に辿り着く。あとには黒々と掘り返された地面があった。

「おばば様ぁ、お昼ご飯はなんですのぉ……草抜き終わりましたわ」

「何言っとんねん。自分で作るやろ」


 おばば様の目論み通り、セリーヌは苦しんだ。

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