第十話 夕飯抜き
「で。何作ったん?」
どこぞの令嬢にまともなご飯が作れるものか。セリーヌの手元を覗き込むと、予想に反してお茶碗の中には白米だけが盛られている。
「わたくし、ご飯も作れないんですの……。ずっと、出されたものを食べてきたんですわ。卵の殻が入っていたら怒って、冷めていたら料理人を呼び出して温め直させて。作り方も、何も知らないのに、ですわ」
ぱた、とご飯に涙が落ちる。お茶碗を持つ手は震えていた。
「そうなん。じゃあちょっとずつ覚えたらええやんか。小んまい一歩でも、積み上げたらでかくなるんや」
こと、とおばばはセリーヌの前にボトルを置く。味付け海苔だ。
「とりあえずこれ付けて食うてみい」
「おばば様は、わたくしが草抜きしている間に、何をしていたんですの?」
「買い物や。時間がもったいないんや」
ゆう子は冷蔵庫からいくつか買ったものを取り出した。それらをセリーヌの前に並べる。
「プリンと、おはぎと草大福や。食べたことないやろ」
「プリンくらいは……、食べたことはありますわ」
それはゆう子も想定済みだ。その上で購入した。なぜなら。
「そうは言うても、味も同じとは限らんやろ?」
「くっ……」
セリーヌは唇を噛み締める。プリンは食べ慣れてそこまで食いつくほどのものでもないが、それだけ言われると、食べてみたくなる。
「その前に、そのダイフクとオハギが何か、教えてくださりませんこと?」
「これとこれか」
おばばは二つとも手に取る。蓋を開けて、それから包丁を持ってきた。
「半分にするとな、ほらよくわかるやろ」
草大福が真っ二つにされ、中身のあんこが出現した。続いておはぎだが、普通のものときな粉がかかったものの二種類がある。普通のものは中の餅が現れ、きな粉がかかったものは餅とあんこの層が現れる。
「……! この二つ、内容物も違うんですの?」
「順番が違うだけや。あとはきな粉があるかないかやな」
セリーヌには、おはぎの中の餅が、正直さっき食べたご飯が潰れたようにしか見えず、食欲がわかなかった。
「これとプリンが欲しいですわ」
セリーヌが選んだのは草大福とプリン。言うが早いか、草大福の半分を口に放り込む。
「変わった食感で、……でも甘い、ですわ!」
「何食うとんねん」
「えっ?」
セリーヌの顔から笑みが消える。おばばはにこりともしていなかったのだ。
「タダでやるとは言うてへんやんな? もちろん労働が対価やで? あんたさんは先に食うてるから、拒否権はないけどまあべっちょないやろ」
目をぱちくりしながら、草大福のもう半分を口に入れるセリーヌ。
「おばば様……! わたくしを騙しましたのね!」
「なんも聞かずに食べたんが悪いやろ」
やけになったセリーヌは、おばばが隠し持っていたスプーンを奪い取り、プリンの蓋を容赦なく剥がして開封。
「これは……っ、これで美味しいですわ! 今まで食べたものとは違う甘さがあるけど、程よくてうんざりしませんわ」
容器はあっという間に空になる。素手でおはぎを齧る。次の一口できな粉の方も食べた。
「きな粉があるのとないのとで違いますわ。でもどっちも美味しいのが不思議ですのよ」
瞬く間に食べ尽くした。ゆう子はおもむろにひとつため息を吐く。
「セリナ、明日だけやと無理やろうから、四日かけて消化すんで」
「い、一気に食べたから、一回ですみませんこと……?」
「済むわけないやろ、明日からやるで」




