第7話 アブナイ節足動物
「ふんぬぬぬ……。重い、重いですわ。到底持ち上がりませんのよ」
「何言っとんねん。当たり前やろ。あんたさん筋肉なさすぎて貧弱やもんなぁ」
セリーヌは、座っているおばばの膝の裏と背中を支えて、持ち上げようとしていた。しかし、わずかも浮く気配はない。
「エミちゃんの王子様の真似をしたいんですのぉー! わたくしだって、やればできますのよ! やれば出来る子!」
「どっかの塾とセリナを一緒にすんのは失礼ってもんやで。今すぐ謝ってきい」
「なんですの⁉︎あいたたた……」
「言わんこっちゃないやんか。こんなんやめて、外行くで」
ゆう子はセリーヌの手を振り払い、麦わら帽子を被り、首にタオルを巻いた。
「ケムシ増えてきよるから、ちゃんとタオルは巻くんやで」
セリーヌも慌てて身支度を整える。
「な、何をしに行くんですの?」
「今日するんはこれや」
おばばから渡されたのは、軍手と、刃の幅が狭い鋸。——竹挽鋸だ。
「枯れた竹が邪魔やから切らなあかん。一昨年くらいに、どっこの竹も大体寿命やって、今ある竹はその時種やったやつや。枯れた竹は危ないから、うちの土地にあるやつだけでも切ろ思てる」
セリーヌに、この説明は少し難しかった。どこの竹も寿命だとか、大体そんなことがあるだろうか?
とりあえず、セリーヌは枯れた竹を切りに行くとだけ認識し、それによって起こる支障も特にないのである。
しかし、彼女は竹など華奢で容易に切れるものだと思い込んでいた。
「おばば様……はあ、わたくし、はあ、腕がぷるぷるでございます、わ……」
「ええやん、ムキムキになれるんちゃうか?」
「もっ、もう疲れて……しんどいですわぁ……」
おばばはセリーヌの切って並べた竹を見る。かなり細い竹をわざと選んだらしい。しかも、切りかけているのでまだ二本目。
「もっとペース上げな、終わらんけどええんか?」
「わたくし、筋力もなくってよ……」
「筋力ない自慢してもなんもならんで」
おばばは切りかけの太い竹を蹴り倒した。これで四本目。真面目に最後まで鋸を入れるのは、効率が悪い。ささくれは危ないが、朽ちて蜂の巣に使われたものが頭上から降ってくるよりましだろう。
「まあこれ終わったら、たけのこご飯あるから頑張るんやで」
「たけのこご飯? 食べたことないですわ!」
「そりゃそうやろうな」
「楽しみですわ! でもっ……もう腕が……」
「じゃあもう切らんでええから、こっち運び」
ゆう子は先程自分が倒した竹を示す。セリーヌはへろへろになりながらも立ち上がった。
「こっちも……重いんですわね……」
「竹やからな。足元ムカデおったから、きぃつけや」
セリーヌはおばばを見た。ムカデって何だ。
「ムカデ? それって何ですの?」
「アブナイ節足動物や」
「節足動物って何ですの?」
「なんや、節があって、外骨格のやつや」
「外骨格って何ですの? わあぁぁ! 何かうねうね走ってきますわ! 毒々しいカラーの!」
「ムカデやな」
「ムカデってなんですのぉぉ⁉︎」
セリーヌは竹を投げて逃げ出した。そのままゆう子の家に一目散だ。




