第40話 対抗の先へ
「朝からうるさくて、寝不足になりそうですわ……」
「九時まで寝とってよう言うわ」
クマゼミが大合唱をしているおかげで、耳に鳴き声が響いて頭がおかしくなりそうだ。
そして、この会話はおばばやセリーヌにとって、平常運転である。
「あんたさんはよ食べて動きや」
そうこう話しているうちに、玄関のチャイムが鳴る。
「なんや? 何も用事ないはずやで」
のろのろと朝ごはんを食べ始めるセリーヌを置いて、ゆう子が玄関に向かう。
なんとなく、ただなんとなく、セリーヌは嫌な予感がした。
「セリナ、ちょっと来んか」
朝ごはんを食べかけのセリーヌが玄関へ向かうと、そこにはたまに顔を見る、近くの交番のおっちゃんがいた。
「あら、どうなさいましたの?」
そう言うと、おっちゃんはなんだか困った表情をセリーヌに向けた。
「セリーヌちゃん。こんな顔の嬢ちゃん見たことあるか?」
持っていたタブレットの画面を見せてくれる。そこには、赤いショートヘアに、あまりにも不自然に濃すぎるメイクをしたおばさんのような人物が映っていた。
「…………いえ、知りませんわ」
「ほんまか。これな、駅前の防犯カメラに映っとったんやけど。なんかそこにあった不審物を持って、逃げたらしいんや」
なんでも、昨日から放置されていたスーツケース二つを抱えて逃げたらしい。ちょうど不審物があるということで通報を受けた彼が遭遇したのだ。
彼は追いかけなかった。というよりも、それがその不審物であったと気付かず、素通りをした。
「そんで通報した人に話聞いてな。あれやったんやって思ったときには、もうどこ行ったかわからんかったんや」
「こっちにあんたさんが来たってことは、こっちになんかあるってわかったんか?」
ゆう子の鋭い問いかけに、おっちゃんはおもむろに頷く。
「そうや。聴き取りしとったら、なんかこんな感じの娘が山に住んどった気ぃする言いよる人がようけおるんや」
ゆう子、セリーヌ、そして騒ぎを聞きつけたコーデリアは顔を見合わせた。ゆう子は白髪が少し混じる黒髪、セリーヌは金髪、コーデリアは薄い青の髪だ。誰も赤い髪を持っていない。もちろんカツラかもしれないが。
「そんでその女なんやけど、スーパーにおった子連れのお嬢ちゃんが、その人に会うた言うてな。なんかスーツケース持ってく前やったみたいなんやけど、ポケットから怪しい飴を出して、娘さんにあげた言うんや」
「あっ! そういえばですわ」
セリーヌにみんなの視線が集まる。何をそういえばと思い出したのか。ゆう子はまさか昨日の夜ご飯の内容を思い出したと言うのではと危惧していたのだが、そんな心配をよそに、セリーヌは黙り込んでしまった。
「……セリーヌちゃん? なんかあるんやったら、教えてくれへんか?」
おっちゃんが、おそるおそる問いかける。セリーヌは顔を上げた。変に悪いことを企んだような笑みを浮かべている。
「わたくし、わかったかもですわ」
「あの、セリーヌ様」
割り込んできたコーデリアの瞳には、対抗の炎が灯っていた。
「それはわたくしも言おうとしたことですのよ」
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