第4話 おかず争奪戦
「よし、じゃあセリナ行くで」
おばばはまくった袖を下ろした。わたくしはセリナではないけど、もう放っておく。
「どこにですの? おばば様」
「山ん中や」
セリーヌは、首にタオルを巻いてもらった。首がざらざらして気持ち悪いが、おばばには伝えなかった。使い古したタオルなのだろう。
「見たことのない木が、いっぱいありますわね……」
しばらく山林を進むと、倒木が重なって、少し開けた場所に出た。ここはおばばがたまにくるところだという。
「前にエミちゃんと来た時、これはギャップ言うんやて言っとったわ」
「へぇーーー。そうなんですの……」
何を言っているのかよくわからなかったので、そのまま流した。
「いい天気ですわ。……ところで、ここで何をするんですの? わたくしはサバイバーじゃなくってよ」
「タラの芽採るんや。美味いで」
そう言っておばばが指差したのは、やや背丈の低い、若木だった。
「タラノメって、何ですの?」
「タラの、芽や。揚げて食うんや」
全く理解できなかったセリーヌは、食べ物とだけ自分の中で定義した。
「…………どうやって、採るんですの?」
「まあ、見とき。一緒に採ってもええんやけど、採りすぎると枯れるからな」
そう言っておばばは、枝の先端の緑の部分を、根元からもいだ。
「こうするんや。やってみ」
セリーヌもやってみた。しかし選んだ枝が悪かったのか、袖が枝に引っかかった。袖を引き剥がさんとセリーヌは枝を掴む。
「いたたっ! な、何ですの?」
「見たわかるやん。トゲがあるんや」
「そんなの、知らなかったですわ……」
よく見ると、枝にはぞっとする量の棘が生えている。手元に目をやったセリーヌは、ぷっくり血が出ているのを認めた。
「わ……わたくしは採らなくていいですわ……」
隙を見逃さないおばばは、にんまりと笑った。
「あんたさんのおかずはないけどええんか? 我慢するだけやで?」
「ぐう……そ、それは……」
ちらと見遣ったタラノキは、依然として痛々しい棘の枝を誇らしげに広げている。
「むり……出来ませんわ。ここは、わたくしの…………」
諦めた様子のセリーヌは、躊躇したがおばばを見つめた。
「わたくしの……負けですわ。おばば様」
おばばは、ひとつため息をついた。
さっと、残りの一番芽を摘み取ってしまう。
「なんや、告白かと思ったわ。残念やな」
「なんですの? 告白したら、わたくしのぶんのタラの芽も採ってくださるというんですのっ⁉︎」
セリーヌを見て笑ったおばばは、家に向かって歩き始める。
「それは、秘密や。現にあんたさんは告らなかったんやからな。ネタバレなんて酷いことは、せえへん」




