第3話 初めての、夜明け
無事に日が昇り、朝が来た。おばばは容赦なく布団を引っ剥がす。
「きゃあっ! なななななな、ももももう朝だとおっしゃりたいんですの⁉︎」
「なんやわかってるやん。朝やのにいつまで寝るんや」
徐々に頭が下がり、セリーヌは枕に埋まった。
「だって……すごく気持ちいい……ですわ」
「寝るつもりやな? ……寝たらあんたさんの負けや」
うとうととまどろむセリーヌを見て、ゆう子がにやりと笑う。セリーヌはがばりと起き上がった。
「そんなぁっ! おはようですわあぁぁあ!」
「やかましいな。静かにせんかい、朝やで」
ゆう子は台所へと向かった。ふらふらとセリーヌもついていく。
「あれ…………? 朝食はどこですの?」
セリーヌの指摘はもっともだった。ちゃぶ台に朝食がすでに並んでいるのかと思いきや、どこにもない。そしてセリーヌはふと辺りを見渡した。
「それに、朝といってもまだ暗いですわ」
セリーヌは、田舎っ子ではなかった。常に傍らにメイドを従え、家事のほとんどを経験したことがないお嬢様だった。今まで朝早くに起こされるといっても、せいぜい九時頃だった。
だから彼女にとって夜明けなど、未知の領域である。
「朝飯は寝てたら出てくるもんと違うで。採りに行くんや、今から」
ご飯は炊いているところだったが、おばばはそこは問題ではないと思った。
「獲りに? どこにですの?」
「そこや。出てすぐや」
「そこってどこですのー?」
壁に立てかけてあった短槍を手に、おばばに続こうとしたセリーヌはおばばに止められた。
「何を獲ると思っとんねん。肉じゃのうて、草や」
おばばは短槍を戻し、セリーヌにもハサミを渡す。セリーヌでも流石にハサミの使い方はわかった。
「採りまくりますわよー! エカテリーネ家の名にかけて!」
「そこはじっちゃん言うところや。出直してきい」
庭のプランターに、青ネギを採りに行った。一言で言うと、それだけであった。
「これ、どうするんですの?」
「納豆にかけると美味なるんや。納豆、食うたことないんやろ、どうせ」
「どうせだなんて……でもそうですわね。美味しいんですの?」
「食うたらわかる」
各々ご飯をよそい、手を合わせる。セリーヌは未知の食べ物に心を躍らせて口に運んだ。
「よく……よくこんなものが、あら失礼、おばば様は納豆がお好きなのですわね」
これまた一言で言うと、セリーヌの口に納豆は合わなかったようだ。ゆう子はちらとセリーヌを見た。
「普通に食べるだけや」
話にならなかった。
諦めてセリーヌは、息を止めて納豆をかき込んだ。
「ごちそうさまですわ。……髪がべたべたしてしまいましたの」
「洗って来たらええ、次食べる時は髪縛りや。洗面所は向こうや。……洗濯物干しとくわ」
おばばは洗濯物のかごを抱えて外に出る。ちらりと仏壇の写真を見るその表情は、少しばかり以前より明るい。
今日みたいな日を、きっとじいさんも望んでいただろう。騒がしくなるに決まっている。




