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第33話 救世主




「も……燃やし、て?」

 呆然とするセリーヌに、ゆう子は淡々と答える。

「そうや。あんなもん置いとっても悪いことしかないやろ」

「なんだ、やはり嘘でしたの。嘘つき聖女様は相変わらずですのね」

 偉そうに見下すワルノだが、その手に扇子はなく、代わりに手で口を覆っている。どうやら扇子は捨てられたようだ。そうでもなければ、彼女は扇子を手放さないはずだ。

「ゆう子さん、先部屋行って待っとくで」

「悪いなあ。時間かかってまうわ」

 キヨ子は客間へと向かった。

「わ、わたくしは嘘ついていませんわ! おばば様が捨てただけで、本は……!」

「そうや。セリナをいじるんはええけど、濡れ衣はあかんで」

 珍しく、おばばがセリーヌの肩を持つ。それにより、ワルノはたじろいだ。

「濡れ衣……? おばばばばばば様は、セリーヌの味方をするんですの? ふん、まあいいですわ。すぐわかりますわ、わたくしが正しいと」

「ばばは一回でええ」

「わたくしはもう行きますわ。キヨ子かあさまが待っていますの」

 そう言ったワルノは、キヨ子のあとを追った。


「ワルノ様、お茶を……」

「あら、ありがとう」

 やはり相変わらず顔色の悪いコーデリアが、ワルノにお茶を渡す。ワルノはコーデリアをじっと見つめて受け取った。

「ねぇコーデリア、ゆーまとかいう本のせいで眠れないのは本当なのかしら?」

 案の定、というものか。コーデリアはびくりと肩を震わせる。

「……セリーヌ様から、お聞きになられたのですか」

「ええそうよ」

 もっとも、あんなの嘘っぱちだわと続けようとしたワルノは、コーデリアが頷いたのを見て、反論をやめる。

「あの本、セリーヌ様に見せてもらいました? あの本にはものすごく怖い生き物が、ようけ載っていますわ」

 セリーヌと同じように、すかさず本を読ませようとするコーデリアである。ゆう子の打った先手は、確かに功を奏していた。

「ああ、あの話は本当でしたの? それならその本は燃やしたと、おばばばば様がおっしゃっておりましたわ」 

 相変わらず、「ばば」が多いワルノである。

「そんな……おばば様……。あの本が悪いわけでは、ありませんのに」

 まるで取り憑かれているかのように悲しむコーデリアだが、すでに本はこの世のものではないのだ。

「コーデリア、わたくしと一緒に、キヨ子かあさまの家に行きませんこと? もしかしたら、よーく眠れるかもしれませんわ」

「キヨ子さんの家に……。泊まる、のですか?」

「もちろん、あなたが嫌でもこれは決定事項ですわ」

 キヨ子には了承を得ていないのだが、ワルノは自信満々に胸を逸らせた。

「そこまでワルノ様が心配されるのでしたら……。お願いいたしますわ」

 そこまで話が進んで、ようやくセリーヌたちがやってきた。ちょうどトイレから戻ってきたキヨ子と合流したようで、ゆう子とキヨ子はキヨ子の夫の話をしながら部屋に入る。

「あ、キヨ子さん……。お言葉に甘えて、お世話になります」

 コーデリアは丁寧に、キヨ子に向かってお辞儀をした。ぱちくりと瞬きしたキヨ子はゆう子から向き直り、ワルノを見た。

「…………ワルちゃん、何言ったんや?」

「キヨ子かあさま、その……、わたくしは」

「ちょっとこっち来んかい」

 ワルノはキヨ子に腕を掴まれて、連れて行かれた。

「コーデリア様、ワルノ様と何を話していましたの?」

「い、いえ、少し……」

 自分がキヨ子にお泊まりを伝えたのがいけなかったのではとうっすら気付いたコーデリアは、適当に笑って、誤魔化した。

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