第34話 今日から妖精一年生
なんやかんやでワルノはキヨ子に事情を説明し、なんとかコーデリアはキヨ子の家に泊まることになった。
「では行ってまいりますわ、セリーヌ様、おばば様……」
そうして車が去っていくと、家はいつもより少し静かになった。
「セリナ、コデリカがおらんときでも、あんたさんは庭の掃除や」
「それくらいはわかっていますわ」
セリーヌはそう言って、楽しげに家を出て行った。
「なんや最近騒がしゅうて、ゆっくり茶も飲めんかったわ」
おばばは湯呑みにお茶を注いで、おもむろにすすった。
しかしセリーヌたちのことを厄介そうに言いながらも、不思議と表情は明るいものだ。
「そうや、晩御飯考えとらんかったわ」
昼間はそこそこ暑い。セリーヌはほぼ毎日外に出ているから、夏バテしやすいかもしれない。だから、栄養たっぷりのそうめんでも作ろうか。
そんなことを考えながら、レシピ本をぱらぱらとめくる。最近になって作る量も、作る機会も増えたので、本を見て種類を増やすようにしている。以前なら残り物でなんとかなっていたが、今はそもそもおかずが残らないのだ。
「これとか、どうやろか」
「おばば様ァッ!」
襖がタァンと勢いよく開いた。セリーヌが腕に大量の何かを抱えている。
「なんやセリナ、真面目にやらんか」
「おばば様、わたくし今日から妖精になりますわ!」
セリーヌの腕から、ぽろりとこぼれ落ちた丸く小さなもの。ころころ転がったそれを、ゆう子は拾いあげた。
「ヤマモモ拾てきたんか。そんなようけ持って、蟻付いとったらどうするんや」
セリーヌの先のことを考えないところに、思わずため息が出た。だがセリーヌは、嬉しそうにちゃぶ台にヤマモモの実を広げた。
「大丈夫ですわ! わたくし、拾ったあとにバケツに入れて井戸水で洗ってきたんですの」
そう言われて気付いた。セリーヌの腕が、びしょびしょだ。
「袖濡れとるやんか。はよ着替えな」
「わたくしは濡れたくらいなんともないですわ! ……おばば様はこの実を食べたことありますの?」
「あるわ。そんであんたさんは、それ一個食べたんか?」
「まだ食べてませんわ。でも、美味しそうだったから持ってきましたの」
ゆう子はセリーヌを眺めた。そして、しばらくしてから、言った。
「じゃあそれ、一個食べてみぃ」
「一個だけですの?」
「食べたことないんやろ。一個だけ試せばええんや」
腑に落ちない顔をしていたセリーヌが、ぱっと明るくなってヤマモモの実をひとつ、つまんだ。
「確かにそうですわ!」
口に実を放り込み、しばらくもぐもぐしていると、次第に表情が険しくなっていった。
「な、なんですの、これ……」
「ヤマモモは食べてもええんやけど、酸っぱくて美味ないんや。そのままやったらよう食わん」
「酸っぱいわけではなくて、じゃりじゃりしますわ……。あと、土くさい」
「それは単純に、洗えてないだけや」
結局、セリーヌは飲み込めずに口をすすぎに行った。
「まあ、ちょっとくらい晩御飯作るの遅なってもええやろ」
ゆう子は腕まくりし、台所へ向かった。




