第32話 体調不良と元気っ子
「うう……」
ふらつきながら掃除機をかけるコーデリアの目には、はっきりとくまができている。
「なんやコデリカ、しゃきっとせんかいな」
「ああ……おばば様……。はい、でも…………」
「ああっ! コーデリア様!」
よろめいたコーデリアを、セリーヌが支える。
「コーデリア様、こんなのわたくしでもできますわ!」
「あんたさんがするとろくでもないことしかないんやからやめとき」
「だから、休んでいてくださいまし!」
ゆう子の忠告を、セリーヌは普通に聞き流す。
「でも……。今日はキヨ子さんやワルノ様が来る日ですわ。休むわけにはいきませんの。それに……」
色の悪い顔で、コーデリアは自室の方を見つめる。
「いつまた怪異《UMA》が現れるかと思うと怖くて、眠れませんの……」
セリーヌとゆう子は、そこまで深刻な恐怖をUMAに持っていなかったので、結構驚いて顔を見合わせた。
「わたくしやおばば様がおりますわ、全く問題ではなくってよ!」
自信満々に告げるセリーヌに、心細げに掃除機を握りしめるコーデリア。
「夢に出たら、怖いですわ」
「わたくしを夢に呼んでくださいまし!」
さすがにそれは、無茶な話である。コーデリアは綺麗な髪をかきあげて、俯いた。
「セリーヌ様には出来ても、わたくしにそれは出来ませんわ。格が違いますもの……」
「セリナを抱き枕にしたらええんとちゃうか?」
おばばの提案にも、コーデリアはかぶりをふる。
「夢の中ではひとりきりですわ」
「コーデリア様には何か策はありませんの?」
コーデリアは、じっと考え込んだ。頰に手を当てて下を見つめ、髪をかきあげて右上を見つめ、左上を見つめ、それからまた頰に手を当てて下を見つめ。
「……ない、ですわ」
そうこうしているうちに、キヨ子一行が来てしまった。
セリーヌたちが来てから、キヨ子たちとゆう子は頻繁に会うようになった。それはもちろん、両家にいる元気っ子たちの交流や、必需品の買い出しをする機会が増えたからだ。
「セリーヌ、コーデリア! わたくしが来ましてよ! おーーっほっっほっ!」
伸ばし棒と小さい「つ」がひとつずつ多いワルノは、コーデリアの体調など知らず上機嫌だ。
「お待ちくださいワルノ様……、すぐお茶……を」
挨拶を済ませ、壁に手をつきながら台所へと消えるコーデリアを見たワルノは、眉をひそめた。
「セリーヌ、コーデリアはどうしたんですの、あの子に悪いことでもしましたの?」
「わたくしはなにもしていませんわ、ワルノ様。コーデリア様はUMAが怖くて眠れていないのですわ」
「ゆーまぁ?」
「ウチュージンとかですわ。確か本がこの辺りに……」
セリーヌは、事の発端になった本のある棚に手を伸ばした。
「あら、ありませんわ……?」
しかし、棚にはあの不気味な写真が用いられた表紙の本がない。セリーヌは周辺を探したが、どこにもない。
「なに? 冗談でわたくしを騙そうとしましたの?」
この無意味な時間に耐えきれず、不機嫌になりかけたワルノだったが、ちょうどその時おばばが姿を現した。キヨ子と一緒だ。
「あ、おばば様! UMAの本が見当たりませんの」
「何に使うんや?」
訝しんだゆう子は問いかける。
「ワルノ様にも見せようと思ったんですの」
ゆう子は本が原因というより、本を他の人に見せようとする彼女たちの気軽さが原因なのではないかと内心思っていた。
「あの本な、今燃やしとるわ」
なお、今と言わず昨日の夜にすでに処分済みであった。




