第29話 恐怖の晩
つゆ騒動から数日経ったある日。
「……おばば様、これは何でしょう?」
埃が溜まりつつあった押し入れを掃除中のコーデリアが、一冊の全ページがカラーの本を持ってきた。
文庫本より少し大きいサイズ、表紙には見慣れない生き物の絵と、『UMA』の文字。
「ああそれか。UMAの本やな。なんや昔にエミちゃんが置いてってもたんやろ」
「……エミちゃん?」
コーデリアは絵美子のことをあまり知らなかった。ちなみに絵美子のことを知っているセリーヌは、庭の掃き掃除をしていて今は近くにいなかった。
「あんたさんはエミちゃんのこと知らんもんな。前にキヨ子さんとこが来よったやろ、そこの孫や。昔はようけうちにも遊びに来とったんや」
「エミちゃん……。そのような方がおられるのですね。ではこれは、どないな内容の書物ですの?」
おばばと話が通じていないようで通じているセリーヌとは違い、コーデリアはおばばの使う言葉を理解して、覚えたいと思っていた。そのため徐々に使える言葉のバリエーションを増やしているのだが、どうもお嬢様言葉と相性が悪いように思える。もちろん本人はそれに気が付かないので、中途半端な使い方をしているのだ。
「中見てみたらわかるやろ。未確認生物っちゅうもんを集めた本や」
「未確認……生物。……ひゃあああ!」
コーデリアはページを捲るなり、本を投げ出して尻餅をついた。
「なんや急に本投げて」
「ななな……なにかっ! 何かいますわおばば様!」
「なんかおるって……。紙魚やん、大したもんやない」
ゆう子はよっこいせと本を拾い上げ、逃げ惑う紙魚を手でさっと払った。
「そんな……おばば様ありがとうございます」
「虫に食われるわけないんやから、そう怖がらんとおればええんや」
床に落ちた紙魚が逃げてゆくのを見て、コーデリアは内心恐怖したが、なんとか押し殺した。
掃除が終わったコーデリアは、自室に戻って本を開いた。もう紙魚はいないので安心してページを捲った彼女だったが、今度は別の理由で悲鳴をあげることになる。
「セリーヌ様……」
「こ、コーデリア様? わたくし今日はちゃんと寝ますわ!」
「いえ、それはそうなのですが……」
慌てた様子で部屋の中を隠すセリーヌの後ろから、薄く明かりが漏れている。コーデリアがそっと襖を閉めると、しばらくがさごそいったのちに、セリーヌが中から出てきた。
「ええと、なんですの? コーデリア様」
それでも部屋の中は、やはり汚いようだ。薄明かりに照らされて、ぐちゃぐちゃに積まれた服が覗いている。
「あのう、セリーヌ様、今日だけわたくしと一緒に寝てくださらない……?」
部屋から顔だけを出しているセリーヌは、ちらりと室内を顧みた。散らかっていて、正直コーデリアも入れるのは難しい気がする。
「珍しいですわね。でもわたくし、部屋がちょっと……」
「べ、べっちょないですわ。わたくしの部屋にセリーヌ様がおいでになればいいのですわ」
「で、でも、わたくしは……」
セリーヌには、どうしてもこの部屋を離れたくない事情があるのだった。
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