第27話 決心の時
ワルノは数日ぶりに、この庭に降り立った。
相変わらず門の松は綺麗に剪定され、古びたガレージは空っぽで、どこか空虚さがあった。
先に家の中に入ったキヨ子とゆう子たちの笑い声が聞こえる。ワルノも清三と共に、玄関へ向かった。
「なんやほんまに増えとると思わんかったわ。いたずらしてへんかったん?」
「そうや。コデリカっちゅうんや。ふたりで悪いことするんか思たらなにもしてへんから、逆に怖いくらいやわ」
「わたくしはコーデリアと言いますの。よろしくお願いしますわ」
コーデリアは手を拭き、綺麗にお辞儀をした。
「コデリカ、キヨ子さんたちにお茶出すんや」
「ちょうどさっき、お茶を淹れましたのよ。すぐ出せますわ」
コーデリアは先ほど自分が飲むために作ったお茶を注いだ。そしてキヨ子に渡してから目を丸くする。
てっきりキヨ子だけだと思っていたのだが、おばばはキヨ子『たち』と言っていた。
「あの……、おばば様、あと何名」
「ごきげんようセリーヌ! コーデリア! わたくしもおりますこと、忘れないでくださいまし!」
コーデリアはあんぐりと口を開けた。堂々と短くなった髪を払いながら入ってきたワルノに、キヨ子の夫、清三がよぼよぼと続く。
「わ、ワルノ様……」
扇風機に当たって涼んでいたセリーヌも、これには驚いた。その一方で、セリーヌは腑に落ちたことがある。
本来自転車で一時間ほどかかる距離にあるスーパーに行ったのに、予想より早くおばばが帰ってきた理由。
自転車もキヨ子の車に積んで、送ってもらったからだ。そして、キヨ子と共に買い物に出ていたであろうワルノと清三がついてくるのは当然だろう。
「なんやコデリカ、はよ茶を淹れんか」
「はっはい、どうぞですわ」
コーデリアはあたふたとあとから来たふたりにも紅茶を渡す。ワルノは早速一口含み、満面の笑みになった。
「そうそう! これですわ、久しぶりのお茶! コーデリア、美味しいですわよ!」
「ありがとうございます……」
「ねぇあなたたち、本当に何もしていませんの? わたくしにはわかりますわ」
ワルノはセリーヌとコーデリアに顔を寄せ、おばばたちに聞こえないほどの囁き声で言った。
「テレビって、ずっと付けてると熱くなりますのよ。……ねぇセリーヌ?」
コーデリアの背後に回ろうとしていたセリーヌが、不自然に視線を逸らす。それを見たワルノはにやりと笑みを浮かべて追い討ちをかける。
「コーデリア、なぜティーカップが洗い立てなのかしら? それにこんなにタイミングよくお紅茶を淹れたてになんて、あなたにできるかしらぁ?」
「何をおっしゃっておりますの? ワルノ様」
コーデリアは静かにそう答えるも、内心冷や汗をかきまくっている。これだけは、おばばにばれるわけにはいかないのだ。
突然の刺客、ワルノの登場をどう乗り切るものか。セリーヌとコーデリアは視線を交わす。ワルノの問いかけを無視してもいいのだが、それではおばばやキヨ子に泣きつかれてしまう。なんとしてでも、それだけは回避しなければならないのだ。
「ワルノ様、わたくしから、大事な話がありますわ」
セリーヌは、覚悟を決めた。長年の宿敵同然のワルノを、ついに仲間に引き入れる時が来たのだ。
腹を括らなければ、ならない。




