第25話 誰にでもあるつまみ食い
「んん〜! このお菓子、美味ですわ。名前は……、『おらんげ、こっけー』。なかなかいい味をしておりますわ」
キヨ子夫婦が田んぼの見回りついでの散歩をしている間のことだ。ワルノはダンボールに詰められた大量のお菓子を発見し、遠慮なく次々と開封していた。
今ワルノが頬張っているのはオレンジクッキー。箱の中に一枚ずつ個包装になっているものだが、残りは二、三枚ほど。ここまでくると、ワルノの興味は他のお菓子に向き始める。
「これは……? 『もーん、り……?』読めませんわ、外つ国の言葉は難しいですわね」
こちらもクッキーだ。ひとつひとつが大きいので、枚数はそこまで多くない。
「さぁて……、こちらはどのような味ですの?」
「ワルちゃん、何しとんや」
さっと振り向くと、腕組みしたキヨ子夫婦がそこにいた。あまりの目の鋭さに、ワルノはセリーヌとテレビを見たことを思い出す。やはり自分が主ではないこの世界は、自由が効かなすぎる。そしてそれを、ワルノはすっかり忘れていたのだ。
「え……えと、美味しそうなお菓子があるものですから、味見してしまいましたわ」
さらに険しくなるキヨ子の表情。わかっていた。ここではその言い訳が通らないことを。でもワルノは、これ以外に言い逃れる方法を知らなかった。
「自分のモンなわけないんや、勝手に食べたあかんのはわかってたやろ」
急拵えで何か考える。蟻がたかっていた……この部屋に蟻は一匹としていない。お腹が空いた……さっき昼食を取ったばかりだ。でもここに来る前は食べまくっていたのだ、食べ足りないのは当然。それでもこの言い訳は駄目だ。『働かざる者食うべからず』と一蹴されるのが目に見えている。ではこれは? 古そうだったから、キヨ子たちがお腹を壊すのを回避したかった……いや、どう見ても古そうに見えない。季節に合わせた涼しげなパッケージ、塩を使った内容物。今の時期のものだ。
仕方がない。本当のことを言うしかなさそうだ。
「初めて見るお菓子ばっかりで、とても美味しそうだったので……、誘惑に耐えきれず食べてしまいましたの……」
怒られる。これは絶対に怒られる。だって食べてはいけないのは最初からわかっていたのだ。でもどうにかなる気がして、そもそもお菓子なんて一つや二つ食べたところで、結局のところ最後には誰かが食べてなくなってしまうものだ。それがたまたまわたくしだったとして、なにか問題だろうかと思ってしまったのだ。それに、最近外で動いてばかりで、糖分に飢えていた。
目に毒だった。キヨ子が悪いとも言えなくもなかった気がしたのだ。
「……そうなん」
恐る恐るキヨ子を見ると、深い皺を刻んだ顔は、やや諦めているようだった。
「食欲に勝てんことは誰にでもあるやろうな」
キヨ子の夫、清三もそう言ってうんうんと首を縦に振る。
「……許してくださいますの……?」
キヨ子と清三は、顔を見合わせた。
「まあ、ええやろ。でも今回だけやで」
キヨ子は許した。が、清三は眉間に皺を寄せている。
「このお菓子はな、絵美子ちゃんにあげるもんなんや。なくなってもたら送られへん」
はっとした。キヨ子には絵美子という孫がいるとは聞いていたが、お菓子を送っていたとは。
「わたくしは……、なんてことを」
「もうええわ、今から買いに行けばええんや、もうしたあかんけどな」
「そっ……」
そんな軽くて、本当にいいのか。
「ほら行くで。ワルちゃんがお菓子選んだら、絵美子ちゃんも喜ぶやろ」
「あ、ありがとうございます……」
ワルノは、段々と丸くなりつつあった。
『もーん、り……』は、ムーンライトです。
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