第21話 嵩む食費
「聖女であるあなたが帰国を拒否されたので、この時をもってセリーヌ・エカテリーネの聖女の資格を剥奪します。これから聖女となる方を再選考いたしますので、お時間をいただきますが、ご了承ください…………」
「セリナ。あんたさんが遅起きなのはもう今日はええわ。それよりな、あんたさん何か知っとんか?」
「何かって、何ですの?」
「あれや」
無造作に襖を開く。廊下に出る襖ではなく、部屋の仕切りの方だ。
「コーデリア様! ふくよかになっておりますわね!」
そしてそこには、彼女にとってよく見慣れた人物が端座していた。ピンクブロンドで柔らかくまっすぐな、腰に届く髪に、大人しげな微笑み。ドレスやセンスも落ち着きのある色味だ。
「…………、まあ、セリーヌ様」
少しふくよかになったコーデリアは、セリーヌの率直な意見にぎくりとした。彼女としても、食べ過ぎの自覚はあったのだ。
「やっぱりセリナの知り合いか。やけどセリナ、この娘は落ちてきたんとちゃうんや。起きたらそこにおったんや。だらしない足の伸ばし方しとうから、座らせたんやけどな」
「おばば様、コーデリア様はわたくしが呼びましたの。だから、空から降ってこなかったんですわ。降ってくるのはいつも、崖から落ちた者だけなんですもの」
「セリーヌ様……、そうですわ、わたくしはずっと心配でしたのよ」
セリーヌの言葉を聞き、はっと表情を変えたコーデリアは、高く細い声で早口に言った。
「セリーヌ様が生きていると、ワルノ様がおっしゃられるのです。ワルノ様は、何が何でもセリーヌ様を亡き者にしたいようでした。色々と探し回っておいでだったのですが、いつの間にかワルノ様は行方不明になって、セリーヌ様が落とされた崖に、ワルノ様の髪のリボンが落ちていたのですわ。まさか……、ワルノ様とはお会いしておりませんわよね?」
眉根を寄せるコーデリアに、セリーヌはにっこりと返す。
「ワルノ様なら、会いましたわ。今はキヨコさんのところで面倒を見てもらっていますわ」
面倒を見るというより、住み込みの雑用のような存在だが。
「まあ……っ! 何ともございませんでしたの?」
口を手で覆い、顔を青くするコーデリアだが、コーデリアが思うほどセリーヌは繊細ではない。むしろ、他人からの嫌がらせなどには鈍い方だ。
「ワルノ様はテレビを見たがっておりましたわ。……でも、それはわたくしもですわ、おばば様が録画を消すんですの」
「てれび……? ろくが? セリーヌ様は物知りですのね、素晴らしいですわ」
「もうええやろ。朝ごはんも食べんとそないに喋っとっても、水やりもできんし枯れるで、豆が」
ゆう子はうんざりという顔で、二人を引き離した。そうでもしないと、この会話は終わらないだろう。
「おばば様、コーデリア様にもここにいてもらいたいですわ。コーデリア様はお掃除や手料理が得意なんですの」
「なんであんたさんがドヤ顔すんねん。……まあええわ、もうしゃあないからここにおり」
呆れ顔のゆう子から、許可が出た。セリーヌは弾けてコーデリアに飛びついた。
「セリーヌ様、あのおばあさまは何をおっしゃっておられますの? わたくしには難しいですわ」
聞こえたら失礼かと思い、小声でセリーヌに伝えたコーデリアだったが、ちゃんとおばばにも聞かれていた。
「これは播州弁っちゅう方言や。標準語とか堅苦しゅうてしゃあない。セリナもすぐわかってたからコデリカもじきにわかるやろうしべっちょないから気にせんでええ」
コーデリアはぱちぱちと瞬きを繰り返し、数秒かけてようやく言葉を発した。
「わたくしは、コデリカなどという名前ではございませんわ! コーデリアといいますのよ!」
「ええやん、コデリカで。呼びやすいやろ」
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