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第20話 噛み合わない女神



 普段より少し重い労働でくたびれた体を横たえて、セリーヌは夢を見た。

『……ここは……。どこですの? おばば様は?』

 白く深い霧の中、その問いに、応えるものあり。

『ここには、あなただけをお呼びしました。したがって、あなたの言うおばば様は、ここにはいないでしょう』

 しかし、セリーヌには『用もないのに呼ぶんちゃうわ、セリナ』と、聞こえた気がした。

 それは置いておいて。

『わたくしは、世界と世界の間の平和を保つ女神。もちろんあなたのことも、ずっと見守っておりました。あなたは魔法のある世界から、魔法のない世界へ落とされたのです』

 上位世界から下位世界へ落とすのに、特に力も資格も必要ではない。そう女神は語る。

『それが……。何かあるんですの?』

『はい。大きな問題として、この世界の魔素密度はかなり低く、あなたは魔法が使えなくなりました。魔法のない世界は生きづらいでしょう』

 女神はここで一旦言葉を切る。次に女神が言うであろう言葉も、今言われた言葉の意味も、セリーヌにはわからなかった。

『それが……。何か問題ですの?』

『えっ?』

『えっ?』

 女神はぱちぱちと幾度も瞬きを繰り返す。

『いや、ですから、魔法が使えないのです』

『でも、おばば様がすぅいつをくださるから、楽しい美味しいばっちぐー! ですわ』

 セリーヌはきょとんと首を傾げた。思わずといった具合に女神がため息を漏らす。

『あ、はあ……』

 しかし、こんな対応では女神の名も落ちてしまう。女神は気を取り直した。

『では、あなたをいじめているワルノ・ブリティーヌを、あなたの代わりに元の世界へ送還しましょうか。あなたは自分の意思で世界を跨いだわけではありません。故意に落とされたのです。そのため、あなたにはわたくしにひとつ願い事をする義務があります。もしワルノを強制送還すること以外を望むのであれば、今おっしゃってください』

 義務。何が言いたいのかわからないセリーヌでも、これだけはわかる。面倒そうなことをしろと言われている。

『ワルノ様は、キヨコさんが育てますのよ。…………そうですわ』

 セリーヌはついに思い出した。背後ゼロ距離におばばの気配を感じつつも、親友のことを。

『コーデリア様が今どのように過ごされているか、教えていただけますこと? わたくしのことを気にかけていた彼女が、心配ですわ』

 おばばの体温すら感じるような気がしながらも、女神に頼む。女神は口元に手を当て、やや考えた。

『コーデリアですか。……ワルノがいなくなったことに安堵しつつも、あなたのことが気になりすぎて貴族のお遊びが出来なくなっているようです』

 お茶会などに参加せず、家に引きこもって暴飲暴食を繰り返しているらしい。それを聞いてセリーヌは、ここ最近の労働で、少し自分が痩せたことを思い出した。

『そうだわ、コーデリア様もこちらにお招きするのはどうかしら? きっと賑やかで楽しいですわ!』

 背中に穴が空いて貫通しそうなほどの視線に耐えきれず、ついにセリーヌは振り返った。霧がさらに濃くなる。何も見えなくなった。

『かしこま……りま…………した。せ——……』

 遠のく女神の声を聞きながら、セリーヌは目を開ける。

「何時やと思とんねん。もう十一時やで、いつまで寝るんや」

「あら、おばば様、おはようですわ」

 ゆう子は腰に手を当て、ひとつため息をついた。

「あんたさんがもう悪いことせんように、録画全部消したわ」

 山に響き渡る、セリーヌの起床後一番の絶叫。

「なっ……ななななぁんですのぉーーーー!」

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