第17話 元気いっぱいの収穫物
その日、王宮はいつになく騒がしかった。
「ワルノ様が、ワルノ様がどこにもおりませんわ……!」
コーデリアも慌てふためいて東奔西走しながら、それでも心の中ではほっと安堵していた。
ワルノという令嬢は、コーデリアとセリーヌの仲を引き剥がし、それだけではなくセリーヌに罪を着せて刑を執行させた張本人。しかし、ワルノが聖女だということで、周囲の者はワルノの言いなりだったのだ。コーデリアを除いて。
「ワルノ様、どこにおられますの……?」
ワルノを探し、王宮の庭に出ていたコーデリアは、ふとロープで囲われた区域を見た。そこは立ち入り禁止の空間。
そして、セリーヌが突き落とされたというあの崖だ。
「ワルノ様は、もしかしてここに……」
コーデリアはロープを跨いで忍び込む。そして、確信した。
「これは……」
彼女は、真紅のリボンを手にしていた。
「キヨ子さん、今日は泊まるんか?」
鴨肉を煮ながら、おばばが問う。
「そやなあ、もう遅いし泊まってもええか?」
セリーヌは、花で作った冠をくるくる回しながら話を聞いていた。おばばが横目でセリーヌを見る。冠は草抜きの時に作ったものだ。
「セリナ、虫が付いとるからそれ外でやるんや。家に虫あげんといてくれ」
「わかりましたわ……。そんなにいうのでしたら、外に置いてきますわ」
セリーヌは玄関を開けた。そこまで見て、ゆう子は鍋に目を戻した。
その一瞬。目を逸らした一瞬、ゆう子は当然ながら見逃していた。
「ぅわわわっ! なん、ななななんですの?」
雹より大きな氷でも降ってきたのかと思うほどの轟音。セリーヌの叫び声が重なって、おばばは血相を変えた。
「セリナ! なんぞいや!」
セリーヌは、玄関で腰を抜かしてへたり込んでいた。そして、その向こうには。
状況を把握したゆう子は極めて冷静に、キヨ子を呼んだ。
「キヨ子さん来てみぃ。セリーヌはこうやって来たんや」
果たして、キヨ子がよぼよぼと玄関にたどり着くまで、この状態を維持出来るのだろうか。
不可能に思えたが、セリーヌですらキヨ子が到着してもしばらく動けなかった。
故に、キヨ子は変わらぬ状況を目にすることが出来た。
「なんや……。こんなことが、ほんまにあるんか」
「あるんや。今目の前にあるやろ」
腰を抜かしたセリーヌの向こう側には、誰かの頭から地面にめり込み、足がはみ出していた。
ヒールのある靴は、片方が脱げて転がっている。
そして、それを目にしたセリーヌは、腰が抜けただけでなく青ざめていた。
「セリナ、どないもないか? ……なんや、知り合いか?」
「おば、ば、ば、ばば様……。こ、この方は、その」
「なんや、普通に喋りんか」
「わ、ワルノ様……、が」
その時、目の前の足は意識が戻ったのか、僅かに動いた。それを見たセリーヌは後退ろうとするも、うまく動けない。見かねたゆう子が脇を掴んで、引きずって家に強制送還した。
「んわ、わたっ、もごもご、したの?」
声と共に、地から生えた足が活発に蠢く。おばばとキヨ子は片足ずつ掴み、大根を抜く要領でそれぞれ外側に向けて持ち上げた。
「ぷはっ、いいいいたたたた、股が裂けますわ! 無礼者、手を離してくださいまし!」
今日収穫したのは、くすんだ銀髪の傲慢気味なご令嬢だった。
「キヨ子さん、ようけ元気なのが採れたな。もろて帰り」
「ゆう子さんええの? 嬢ちゃんの友達じゃないんか?」
ゆう子は首を振る。セリーヌの反応は、決して友達にとる態度ではなかった。
「セリナの知り合いっちゅうわけやない。やから、使てやり」
「おおきに、ゆう子さん」




