第15話 さぼり合法化
おばばの敷地は広い。
そのおかげで、清掃要員のセリーヌは、頻繁に草刈りに駆り出されるのである。
「おばば様、最近羽振り悪いですわ。わたくしは以前のようにガッツリとガッポリと報酬をもらいたいですわ……」
ぶつぶつ言いながらも時々移植ごてで掘り返しながら、セリーヌは草抜きを進める。
なお、ゆう子がご褒美を用意にあげたがらなくなったのは、セリーヌが説明も聞かずに爆食したことを根に持っているからである。
しかし、その時セリーヌははっと顔を上げた。家のチャイムの音がかすかに届いたのだ。
「またエミチャンが本を? 今行きますわー!」
元気いっぱいに玄関に出たセリーヌは、屋内でテレビを見ていたはずのおばばが応対しているのを見た。
そして、訪問者は宅配便ではなかった。
「生きてたんか。あんたがうちに来るっちゅうことは、なんか獲ってったんやろ? キヨ子さん」
「ああそうや。ご主人元気しとうか、うちはこないだ鴨を撃ちよってなあ」
「何言うとんの、うちはもう死んでるで、主人」
「あーそやったか、悪いなあ」
「気にせんでええよ」
笑う二人の間に広がる、独特の空気感。無意識に回れ右し、草刈りに戻るセリーヌは、ここに来た日のことを思い出していた。
「確か、わたくしのことをエミチャンに似ていると……。で、そのエミチャンが、キヨコさん……? ところの、って言っていた気がしますわ」
つまるところ、キヨコはセリーヌにとって関わりのある人物だ。だがセリーヌには、あのおばばよりしわしわの老婆が、一体エミチャンの何であるかはわかるものではないのだった。
「はあ……抜いても抜いても根っこが残りますわ。しかもたまに、ムカデ……じゃなくて、ヤスデとか蜂が……。おばば様もやればいいのですわ」
「セリナ? どこおるんや」
ため息をついたセリーヌの耳に、おばばの声が届く。噂をすれば、だ。草抜きをさぼる合法的なチャンスである。
「わたくしですの? ここにおりますわー!」
セリーヌは、引き返したばかりの玄関に舞い戻った。
「あんたさんさっきここまで見に来たやろ。何で挨拶せんのや」
「ば、ばれておりましたの……? わたくしの最高練度の【隠形】を施しましたのに!」
「まあ、可愛らしゅうて。ゆう子さんどこでこんな子拾たんや」
「拾たんちゃうわ。降ってきたんや」
あの日のことを思い出し、うんうんとセリーヌは頷く。
「そうですの。わたくしは落ちて、この世界に辿り着きましたわ。近くにおばば様がいて、本当によかったですわ」
そう返すなり、キヨコに思い切り笑われて、セリーヌはぱちくりと瞬きした。
「な、何かありましたの? あ、扇子を忘れておりましたわ、おほほ……」
最近は庭仕事ばかりで扇子を広げる暇もなく、忘れていた。だがキヨコがツボったのは、そこではない。
「なんなんよおばば様って。ここら辺におばばはよーうけおるで? 嬢ちゃんはどうやって呼び分けるん?」
一瞬、セリーヌは言われたことが理解できなかった。
「おばば様は、おばば様だけですわ。キヨコさんはキヨコさんと呼ぶことにしますわ」
答えたものの、これのどこが面白かったのかはわからなかったが、まあいいかとセリーヌは思う。
「ゆう子さんは変わった子を気に入ったんやな」
「親切に泊めてやってるだけや」
「ツンデレはほっといて、嬢ちゃんな、鴨持ってきたで。うちだけやと食べきれへんもんでな」
「カモ? カモって何ですのおばば様」
「鳥や。肉食うんや」
すかさずにやにやするキヨコ。
「あー、ゆう子さんがそない甘やかすから懐くんやなこの子。めんこいなあ」
セリーヌは、早くもカモ料理を食べる時が待ち遠しくなった。




