第12話 暗雲立ち込める
数日前。
この世界に来てすぐの時より日焼けし、腰あたりまであった金髪を鎖骨の辺りまで短くしてポニーテールにまとめたセリーヌは、田舎っ子のように逞しい顔つきになっていた。
『おばば様、このボタンは何ですの?』
セリーヌが示したのは、テレビのリモコンにあるハードディスクのボタンだった。
『それか。録画したんを見る時に使うやっちゃ』
しかしセリーヌには、録画という言葉がわからなかった。昼間にゆう子がテレビを見ていることが多いので、テレビという動く絵画のような機器には慣れていたが、それだけだったのである。扱い方は理解していない。
『録画って何ですの?』
『テレビ見たいけど、忙しいっちゅう時にあとで見れるようにするやつやな。まあ、もうしばらく使ってへんけど』
『そんな便利な機能があるのですわね……』
納得したような顔をしたセリーヌに、おばばは少し嫌な予感がした。
そしてその予感は、的中していた。
「——前のちまきの時は大変な目に遭いましたもの、勉強は必要なものですわ!」
ゆう子は早く寝て、また朝早くに起きる。最近毎日が楽しいセリーヌにはわからない生活リズムだったが、年老いた者にはありがちなことだ。
そしてルーティンを学んだセリーヌは、この時を虎視眈々と狙っていた。
こどもの日に、ゆう子からちまきを貰ったセリーヌは、どう食べるのかわからずに笹の葉ごとかじりつき、軽く口の中を切ってしまった上、イネ科特有の固い繊維が口の中に残るという、悲しい結果になった。おまけに中の餅も潰れてしまった。そしてセリーヌは学んだ。この世界とこの世界の食べ物について、もっと知る必要があると。
「おばば様はもうお休みされたようですわ。ここからは、わたくしのターンですわよ!」
夜な夜な練習を繰り返したセリーヌの手つきは、やや手慣れたものになってきた。テレビをつけ、画面が明るくなると同時にすかさず消音。そして彼女は、番組表を表示させた。以前観て興味を持った番組はどれだったか。たっぷりある時間の中で、彼女は番組の時間帯と番組名を調べる。
「これですわ。『世界遺産の不思議発見!』これを録画予約で検索して……」
これまでさりげなくおばばに質問を重ね、夜になれば録画の方法や番組の種類などを学び、経験を積み上げてきた。おばばは録画をしないらしく、録画容量はほとんど削られていない。
セリーヌはわずかにある、録画されたドラマなどには興味がなかった。どれも初回からの録画ではなかったというのもあったが、彼女の好みには合わなかったのだ。そしてこれは、おばばの亡き夫が残したものだったが、セリーヌはそれを全く知らない。
セリーヌは、わくわくしながら予約画面を閉じた。いよいよ、これまでの試行錯誤の成果が出るのだ。消音を解除して、おばばに悟られないように電源を切る。これからはずっと、このことで頭がいっぱいになるだろう。
布団に入っても、口角が上がってしまう。おばば様に悟られないようにしないと。
そう思いながらもなかなか寝られなかったのがブルーライトの所為だとは、少しも気が付かないセリーヌだった。
「……セリーヌ……カ……リーネ、……えておきなさい…………罪を…………」




