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第13話 仏間にて



 翌朝、思っていたより深く眠れずに早起きしたセリーヌは、難しい顔をしていた。

「ふう。なんだか嫌な夢を見た気がしましたわ……」

 証拠と言わんばかりに、髪が汗で張り付いている。暑かったと言えばそんな気もしなくはないが、それだけではないはずだ。

「でも、覚えていませんし、もやもやだけが残りますわね」

 考えても仕方がないと思い、うーんと体を伸ばす。それだけで、少しわだかまりが晴れたような気もするので不思議なものだ。

「よし、今日もおばば様と働きますわよ!」

 きっと今日も忙しいから、夢のことなんてすぐに忘れるだろう。

 セリーヌは切り替えて、顔を洗いに行った。


「——セリーヌ・エカテリーネが生きているですって?」

 広々とした王城の廊下に、甲高い声が響き渡った。近衛の者たちは耳がキーンとするのを堪えるが、実はこれが日常茶飯事だったりする。もう辞表を出したいくらいだ。

 相手の令嬢、コーデリア・アルトゥールはもうこの突き刺さる声を毎日聴いているので、苦笑よりぎこちない笑みをかろうじて絞り出す。王子の婚約者候補として日々令嬢方と交流しているのに、早くも領地に帰りたくなっている。

 そしてそれは、紛れもなく隣を歩く『聖女』の所為であった。

「あ、あら、そうなのですか? わたくし、セリーヌ様の処刑日は体調がすぐれず、休んでおりましたの。どのような刑でしたの?」

 聖女はこの日のことを訊くと、あからさまに機嫌が良くなる。だから彼女は既に五回ほど、細かく質問を変えて訊いてやっているのだ。

「わたくしは見ましたの。あの、悪の限りを尽くしたセリーヌ様が、最期まで呪いのような言葉を吐いて抵抗し、最終的に殿下の見事な剣技によって命を落とす様を」

「殿下はセリーヌ様を……、斬ったのですか?」

 ふと聖女は、瞬いてわずかに考えた。

「……いえ、手に掛けはしませんでしたわ。追い詰めて、崖から落ちるよう仕向けたのですわ」

「まあ……」

 コーデリアはセリーヌが崖から落ちる様を想像して息を呑んだが、聖女の顔色をさっと伺い、嬉しいかのように笑った。聖女にとって、セリーヌは敵も同然なのだ。セリーヌを庇う言動は許されない。コーデリアはセリーヌに、酷く申し訳なさを感じていた。


「おばば様、こ、これはどうすればいいんですの……」

 駆け付けたゆう子は固まった。場所は仏壇前、そしてセリーヌに呼ばれる直前、物が割れる硬くて儚い音がしたのだ。予想は簡単についたが、どうか現実であって欲しくないと願っていた。

「なんてこと……してもたんや、セリナ……」

「ごめんなさい……。前におばば様と観た子どもがいっぱい出てくる番組のダンスを踊っていたら、扇子が、……扇子が、当たってしまいましたの……」

 夫の愛用していた、湯呑みが割れていた。

 ゆう子は考えを巡らせる。

 セリーヌの、湯呑みを割った理由が、実年齢に見合わないくらい幼い子どものすることであり、実にしょうもないものだ。

 だが、彼女はこの世界に産まれた人ではない。それはゆう子だけが知っていることだ。彼女の元いた世界にはダンスなんてなかったのかもしれないし、そもそもテレビという新しいものに触れて、日常がさらに楽しくなってしまったのかもしれない。舞い上がった人間の取る行動というのは、実に馬鹿馬鹿しいものがほとんどだ。

 結論。

「…………セリナ、大丈夫や。ここは片付けるから安心せぃ。遊びよるのはええんやけど、でもこういうところで遊ぶんはあっこいから気いつけや」

「おばば様……。気を付けますわ」

 少なくともセリーヌは、少し反省したようだった。

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