赤い壁
「今度はどこに行くんだ?」
リビィはメルを連れて遠方に来ていた。
リビィから場所は聞いていないというより教えてくれなかった。食べに行くぞと昼飯を誘う感覚で誘われたメルは何の疑いなく泳いだら、何十キロも泳ぐ羽目になっていた。
メル達からしたら散歩程度の距離になっているが、それでも食事しに行くにはちょっと遠い感覚だった。
「美味しいものが見つかったって連絡をもらった。」
「誰から?」
連絡を貰ったという事は今向かっているのは連絡をくれた人だろうが、そんな者がいたか?島の者なら一緒に来ている筈だから。十中八九外の者である。
どうやって連絡を貰ったかは知らないが、外の者と繋がりがリビィにあるのか?とメルは思っていた。
「おばあちゃん。」
「あぁ、前に言っていた亀のばあちゃんか。」
リビィに色々知恵を教えた亀のばあちゃんの話は昔から聞いていた。
実際には会った事はメルにはないが、ビーム練習場がその亀の甲羅という話は聞いていた。
何度か話してみようかと超音波を飛ばしたが、メルでは出力は足りず、皆でやったら届くかもしれないが、五月蝿くなるかもしれない可能性があり、巨大亀おばあちゃんの不況を買うかもしれないから。
メルは会話を断念していた。
「島で水浴びしていると亀が伝えて来たんだ。」
話を要約すると、ばあちゃんの周りの海に大量に美味しい生き物が今年、発生した為、間引きを含めて自分達では食い切れないほど量なのでリビィも食べない?というものだった。
つまり、お裾分けである。
「環境と勢力維持としてもそれをそのままにしておく訳にはいけないそうだ。」
「それで向かっているのか?はじめにその亀おばあちゃんに会いに行くのか?」
「いや、来る途中にも大量に繁殖しているみたいだから。食べ切ってから来たら良いそうだ。」
リビィにお裾分けされたのはリビィ達の島からおばあちゃん亀の間にある餌だった。
それだけでもかなり大量だから。
食い終わってからで良いとのことだった。
「お、おい………あれ?じゃないか?」
メルは目の前に広がる光景に絶句していた。
そこにあるのはいつも透き通る青い海ではなく、その生物の体表に反射されて広がる血のように真っ赤な光景だった。
「明らかにコイツらだろう。」
「クラゲだな。海面から海底までびっしり詰まっているな。」
この赤いクラゲは海面から海底までびっしりといるせいで光が届く筈の水深でも腐った血ごとく黒い赤色になっていた。
こんな不気味な暗さをメル達は感じた事がなかった。
「気味悪いな…自然じゃない暗さってこんなに嫌な感じに見えるんだな。」
「あぁ、これは確かに環境の為にも間引きは必要だな。」
それと同時にメルはこのクラゲはなんでこんなに繁殖したんだ?と疑問に思っていた。
リビィの又聞きした話からしてこのクラゲの繁殖力は高く毎年大量に発生しているが、今年の量は異常である事は理解できた。
こんな上下左右端から端まで引き詰められた様なクラゲの赤い壁でこの海域の溶存酸素量も減っているからか、魚達も元気もなく、中には窒息死している魚もいた。
全てこのクラゲ壁の餌になっていた。
「それにこの壁なら食べ切ってから来たら良いって言うわな。」
「そうだな。おばあちゃんのところは四方八方この景色なんだろう。」
この壁を食い切らない限り、おばあちゃん亀の所に行けるわけがないのである。
「まぁ、食ってみるか。」
リビィは勢いよく食い進めて行くが、食った側からクラゲが壁を修復するように集まっていき元の壁に戻って行った。
リビィの姿は壁に呑まれたように消えたが、すぐに壁から出て来た。
クラゲの触手が壁から出さないとリビィに絡みついていたが、リビィは意を解すことなく戻って来た。
「大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。それに美味い。特にこのクラゲ毒は俺達には効かない上にピリッとしてより旨くしている。」
通常はこのクラゲの触手に掴まれたら最後、毒に侵されて食されることになるが、メル達にはこの毒に耐性があるので気にするどころかスパイスとして美味しく頂く事ができていた。
「ペッ!」
「うわっ!汚な!いきなりどうした?お前が飯を吐き出すなんて?」
どんなに失敗した飯でも、不味い飯でも一度食ったからには責任を持って食すリビィが口からクラゲを吐き出したことに汚いと思うと共にどうしたんだ?!と驚き心配していた。
「これ、腐っていた。」
リビィが指差したリビィの吐瀉物には茶色く変色したクラゲがチラッと見えていた。
この量のクラゲである。
自分達の酸素も、餌も足りずに死んでいたのである。
このクラゲの触手は死んでも数日は毒針を出す事が出来る上に一度出た毒針は生物に刺さるまで毒を保持し続けるのである。
なので壁の中には新鮮なクラゲと共に腐敗したクラゲも混ざっていた。
「勢いよく食っていると腹を壊す目になるな。」
群れで一斉にバイキング感覚で食べれば壁もなくなると思っていたメルはそれをしたら群れの大半が腹痛に苦しむ未来が見えていた。
地道に新鮮と腐敗に分けて行くには時間も量も多すぎる上に、今の群れにその作業に回すほどの人員はいない。
「美味い餌を放置するのも歯痒いし、どうにかして選抜する方法を考えよう。」
リビィとメルは自分達の腹を満たすと帰っていった。
かなりの量を2人で食った筈なのに壁が薄くなった気がしなかった。




