馬?
「なんだ?この生き物?」
リビィが近海の島に見知らぬ生き物がいると聞いて、調査に来てみた。
朝一で来たら四足歩行の未知の動物がいた。
足の指も少ない上に硬質な爪に覆われている。その上、身体には毛が生えている。
メル達メルビランは髪の毛が生えているが、通常、海の生物に毛はない。
泳ぐ上で髪は邪魔でしかないのである。
鳥でもない限り、毛なんて常備している生物をリビィは見たことがなかった。
「ヒヒーン!!」
鳴き声も感高く聞き馴染みのないトーンだった。
その生物は周りを警戒しているが、気配を殺したリビィには気がついてはいない様だった。
「何処から来たんだ?まさか海を渡ってきたのか?」
泳ぐのが得意そうには見えないこの生物がこの海を渡ってきたのが信じられなかった。
「それか、なんかの生物が陸上生物に進化したのか?」
可能性として何かの生物が陸に進出したと考えるのが妥当だが、その可能性は低いと考えていた。
この津波や嵐で海に避難しないといけない海域で陸に完全適応した種が産まれるとは思えなかった。
メル達は元々肺呼吸な上に幾つもの呼吸を助ける機能が付いているため、嵐や津波が止むまで海に避難できる様になっている。
しかし、この近くにこの生き物と近縁種な生物を見たことがないため、進化の線は限りなくないと結論付けた。
「取り敢えず、捕まえるか。」
気配を消したリビィはその生き物に近づくと至近距離での超音波ビームで脳を揺らして気絶させた。
「この個体だけか?」
気絶したこの生物を縛り上げるとこの島をくまなく探索したが同一種を見つけることは叶わなかった。
マルク達に近海の調査を指示した後、リビィはメルにこの生き物を聞くことにした。
「これは………馬だな。」
どうやらこの生き物の名は馬というらしい。
本当にメルは何処から情報を得ているのか謎だが、信頼性はあるのでメルが言うならそうなのだろうとリビィは思った。
「馬は泳ぐ事も出来ると聞いたことがあるが、こんな危険な海域にくるなんでな。」
馬は泳ぐのが得意とも言われているが、それは陸上生物レベルでの話である。
海洋生物の泳ぎには到底敵わない上に、この軽く2メートルを超える大きな馬サイズでも容赦なく襲ってくる凶暴な魚もウヨウヨしているこの海域では馬の遊泳力など無力なのである。
「で、これは美味いのか?」
リビィにとってはそれが重要である。
この生き物は美味いか、不味いか、それが未知の生物に対する最初の批評なのである。
「たしか、あっさりとした脂身にとろける様な舌触りがあった筈だ。」
メル自身も馬は食べたことがないので、前世の記憶の奥底を思い出していった。
この世界の馬に前世の馬の味が同じかは分からないが見た目も似ているし多分、同じだろうとメルは考えた。
「それは美味そうだな。」
「食うのか?」
食べるなら馬刺しかな?とメルは今日の晩御飯を考えていた。それなら日本酒が飲みたいがそんな物この群れにはないのである。
「あぁ、食べるが、美味いなら増やしたいな。」
メルの見解ならかなりこの馬は凄い豪運でこの海域で生き残ってきた様だが、またそんな運が良い馬が来るとは限らないので美味いのなら繁殖できないのかと考えていた。
「繁殖させるにもこの土地では無理だろう。」
確かに陸上生物を繁殖させるにはこの海域は不適切というより不可能である。
一瞬にして溺死か海に流されて喰われて死ぬかの二択である。
この海域で迷い込んだ陸上生物の末路もこの二択である。
島に逃げられたとしても何日もしたら海に流される事を知っている海の生き物はその島の近くで待ち伏せしているのである。
この馬を発見した島でも虎視眈々と狙っている魚達で溢れていた。
リビィが島に近づいた瞬間に一斉に逃げていったが、この馬も死ぬのは変わらない事実だった。
「それは大陸進出の楽しみに置いておいたら良いじゃん。」
「そうだな。これは皆にも振る舞ってやる気に拍車をかけるか。」
急激な発展で疲れて気味な皆の為にもこの馬には最高に役立ってもらう事にしたのである。
その晩はこの馬をメインにした料理で皆が喜んでいた。
………この世界の馬は濃厚な味わいとサッパリとした味わいが特徴だった。




