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ヤドカリ

「なぁ、ビレイ。こんなところに美味しい獲物いるのか?」


「あぁ、前に此処で潜水したら海底にいたんだよ。」


 ビレイの趣味は遠泳と潜行である。

 暇な日は体力がある限り泳いでいるか、見つけた海溝に潜っていている。

 そんなビレイはこの近海の海中をリビィ以上に知り尽くしていた。

 今回はビレイが前回潜った深海に見かけない生物を見て食べたら美味かったと言う話からリビィに教える事になったのだ。

 深海は暗い上に場所によっては音を妨害、と言うより他の生物が使うエコーと混じって探索困難なのである。

 そんな中、ビレイは群れの中で随一の五感を持つ者なので、自分と他の似たエコーを混同する事がない為、暗くうるさい深海でも問題なく進むことができるのだ。

 だから、今回の獲物の発見もできた。

 その生物はエコーを使う相手にバレない様に跳ね返る音が岩と同質な物に変える能力を持っていた。

 それのせいで今までは見つけることができなかったそうだが、ビレイはその微妙に岩とは違う音を聞き分ける事に成功したのである。


「あの生き物は甲羅の中に美味い身を持っていた。その身が正に絶品なんた。」


「だから、俺を連れてきたんだろう。」


 ビレイのエコーの出力は低い。

 エコーを判別はできても、今回の獲物は群れではなく個別で生息しているので一つ見つけても一人分しかなかった。

 そこで群れで最大出力持つリビィを連れてきたのである。


「お前ならこの深海でも他の生物に負けない音量と出力を持っている。それなら、群れの皆が食べれる程の量をとって帰れる。」


「相変わらず、お優しい事だね。」


 お前ほどじゃないとビレイは皮肉で返した。

 個別の獲物を大量に取るにはとにかく質より量が必要だった。

 リビィのエコーは独特な音をしている。

 要するに音痴なのである。それでも、大音量で流すことができる利点もあり、ビレイがその生物を教えたらリビィなら自力で取れる様になるとビレイは確信していた。


「あの獲物は確認したら夜行性だ。日中は海底で本物の岩と変わらない様に仮死状態になっている。この状態なら俺でも分からん。」


 ビレイは捕獲した獲物で色々試してその獲物の特徴を調べた。

 その結果、その獲物は夜行性、日中もしくは日の光を感じると仮死状態になって岩と変わらない状態になることを知った。

 だから、日中の捕獲は運だよりの不確定な物であり、砂漠で砂金を見つける様な物である。

 夜でもビレイじゃなかった100%見つける事は不可能な獲物で珍品である。


 いた。


 用心深い獲物のため、極力見つかるリスクを減らす為、超音波での会話に移行したのである。


 あれか、確かにあれは岩としか思えないな。


 ビレイに言われても岩としか一瞬思えない程の擬態特化の性質にリビィは感心していた。

 ここまで進化するのに何代かかったのか、リビィはこの獲物に敬意を持ち食すと決めた。


 でも、分かった。僅かに生物由来の空気を感じる。


 リビィにも微かにその獲物から生物由来の空気を感じることができた。

 無生物、生物とでは空気が違う。

 かぼすとすだちくらいの違いである。

 その僅かな違いを感じ分ける事がリビィには出来た。


 あの背負っているのは本物の岩だな。仮死状態の時は薄く岩を纏うから判別不能になるんだな。


 リビィはその獲物の周りにある薄い岩成分から日中の獲物の姿を予想した。

 それをビレイは正解だと頷き返した。


 あの獲物は日中に近づくと徐々に岩を見に纏っていく。そうして日中は岩と同化して隠れている。


 それなら動いている時間は少ないのではとリビィは思った。

 活動時間が少ないと言う事は獲物を見つけて食べる時間も少ないと言う事だ。

 あんなに朝までに毎回あの岩を纏えるだけの成分を蓄積しないといけないと考えると自分の体を維持する栄養を補給する時間はあるのかと疑問に思っていた。


 これは………砂と一緒に微生物の死骸も食べているのか?


 獲物は砂を食べ始めた。

 しかも明らかに食べる砂を選んで食べる仕草をしていた。

 その砂は僅かに微生物の死骸を感じる事が出来た為、この獲物が体をどうやって維持していたのか判断する事ができた。


 なるほど、これなら自分が岩になっても他者に獲物を取られる事なく眠りにつけると言うわけか。


 自らの下の砂を微生物の死骸を含んだ物にする事で獲物を見つける時間を最後にする事ができる。しかも、見つけた獲物を眠っている間に他者に取られることを防げると言うわけだ。

 それに食べる時間を仮死から目覚める直後にする事で腹が減っている状態で探索するリスクを回避しているのである。


 理に適ったやり方だな。


 よく進化している種である。

 少なくても自分達より生物としての歴史はずっと古いと確信した。

 そんな生物の先輩を今から食すのである。


 いただきます。うん、美味い。


 殻は外して食べろ。美味しくないだろう。


 いや、美味いぞ。この岩。


 リビィの舌は特殊な為、岩だろうが、木だろうが、果ては空気だろうが美味しいか、そうでないかと判別ができるのである。

 そんなリビィに呆れながらビレイ早く獲物を取って帰ろうとしていた。


 !


 そう思った瞬間悪寒がした二人は一気にその場から離れた。

 さっきまで自分達がいた場所には巨大なハサミが落とされていた。


 なんだ?このデカさ!


 なるほど、この獲物。寿命がないタイプだな。生きていられる限り際限なく成長できる。


 それにしてもデカい!


 そこにはさっきリビィが食した獲物より1000倍以上は大きな獲物がいた。

 小山を彷彿とさせる背負われいる岩に巨大なハサミ、明らかに100年では効かない程の長寿種である。


 なぁ、こいつで群れの食事どれくらい持つと思う?


 馬鹿言うな!こんな奴と戦う気か?!


 リビィの発言にビレイは怒鳴った。

 リビィより巨大な獲物だ。リビィなら倒せない事はないだろうが無傷では不可能だとビレイは思っていた。

 自然界において軽傷でも運が悪ければ死である。

 極力、治療がすぐにできない状況での傷を負う戦闘は避けるべきである。


 馬鹿を言うなはこっちだよ。こんな美味しいそうな獲物を逃すなんておかしいと思うだろう。なぁ、獲物。


 リビィの際限なき食欲にさっきまで山の如くどっしり構えていた獲物が動揺していた。

 獲物も少し脅かしたら相手も逃げると思っていたが、向かってくるなら容赦する気は一切ない。獲物はそっちだとハサミを構えてリビィの行動を待った。


 そうだよなぁ!そう来なくちゃな!!!!


 リビィはエコーを最大出力にして獲物にビームを放った。


 ………う、嘘だろう。リビィのビームでもびくともしないのか。


 いや、壊せた。


 ビレイは今だどっしりと構える獲物に驚愕していた。群れ一の破壊力を持つビームが効いていないなんて信じられなかった。

 だが、それは間違いだった。

 リビィが行ったのは全体をぶっ壊すいつものやつではなかった。

 リビィのビームでも長年の蓄積で頑丈になった山を壊す事は不可能で獲物の芯には届かないと読んでいた。

 だから、まず初めに相手の脆い箇所だけを読んで壊したのだ。

 そこから芯に届くビームに切り替えて段々と全身を犯す毒の様に芯を壊したのだ。

 ドッカーンと崩れ落ちた獲物をリビィは静止して見ていた。


 ちっ!逃げた。


 え?


 リビィがそう言うとビレイは小山の如き岩の下を見た。

 そこにはデカい大穴があった。


 アイツ、死ぬ直前に仮死状態と味方に救助の電波を発していた。


 それは分かっていたが、その味方は深海の闇奥から感じれた。

 いや、今思うと感じすぎていたとリビィは判断した。

 あれは囮で地下にいる救助に来た味方を悟らせない為の策略だった。


 この近海に俺ら以外に他者同士で他党を組む者がいる。


 美味しい獲物より重大な情報を得る事ができた。

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