空気が悪い
「中々、上手く育ってきたな。」
ジャックイカの家畜は順調良く進められてきた。
「触手を網から伸ばす行為はどうしたんだ?」
「餌が取れないと分かると、何もしなくても辞めたよ。」
リビィがイカが網に入って暫く繰り返していた。
網から外を泳ぐ魚を獲ろうとしたりしていた。
それを無理矢理すると網が破れてしまう為、その行為を辞めさせようと考えていた。
ジャックイカは賢いイカの中でも賢い方なので、網から獲れない上に、自分達を守っている網が破れてしまう事を理解した。
だから、自主的に辞めたのである。
「問題は繁殖に必要なものだな。」
「あぁ、繁殖に必要なものがわかっていない。生息域に近い水深と海藻なども出来る限り同じにしているから。今年が無理なら、来年はパターンを変えたほうがいいかな?」
ジャックイカの生息域の環境がこの辺りと然程変わらないのもこのイカを選んだ理由だった。
それでも、初めての飼育である必ず何処からかストレスを感じている筈である。
その影響で成長不全や共食いを起こす事が考えられる。
今のところ、そんな事は起きたと言う報告がないが、季節が変わり、水温・水質の変化はどうしても自然現象任せになってしまう。
それに適応した個体を厳選して行って、品種改良をしていくのである。
それも卵を産ませて世代交代させていかないといけないのである。
「まぁ、それはともかくとして、村に参加した他の同族はどうした?」
「それなら、問題なく棲んでいるぞ。」
リビィは自分がいない間にメル達が連れてきた自分達と同種、クジラ種を連れてきたのである。
体型はビレイ似のスラっとしたクジラ(メルはイルカと言っていた。)が、メル達の群れに合流したのである。
家畜や植民地化以外にも同族を増やす行動も起こしていた。
今、この群れには雄が少ない。
メルは繁殖に積極的(雌に襲われているだけ)だが、ビレイはまだしもリビィは一切していなかった。
メルを巡った修羅場や繁殖の大変さを見てきたメル以下の雄達は繁殖に消極的で複数人を娶ったりはしてこなかった。
それも相待って食糧問題が解決している今は群れを大きくしたいのに出来ずにいた。
「それでも、合流したのは雌と小さい子供がいる群れだ。繁殖までは時間がかかる。」
「こればかりは時間が解決するだろう。」
「いや、リビィも子作りしろよ。」
リビィが明らかに話を切って終わらそうとしているのが、珍しくメルにも分かったので追求することにした。
「…………あまり、気が乗らないんだ。」
「どうしてだよ?お前、モテるだろう。」
長年不在でいきなり復帰したと思ったら群れの実権を握ってメルと主導して群を大きくしようとするリビィの事を気に入らない者の群れには多数いるが、そんな中にもリビィの力を見て惚れ込んだ者やリビィが卵になる前からいる者には10年間リビィに想いを寄せている者もいた。
そんな者達とリビィは結婚しようとしなかった。
「俺は子供を愛せない。親に愛されない子を産んでもその子は可哀想だろう。」
元々、メル達の種は母親のみが子育てをして、雄は雄だけの種で固まって一生を過ごす習性だった。
つまり、父親が子に愛情を与えるのは出産してすぐくらいでそれ以降は愛情を注がない。
いや、注ぐ愛情は出産時に全てを注ぎ終わるのである。
それがメルの世代からは父親の子育てする様に変化したのである。
だが、その期間、卵で進化していたリビィはその意識を改革することなく、この群れに参加した為、その感覚が抜けていない。
リビィは自分がこの群れでは父親としてやっていけないと思っているのだ。
「そ、そんな事ない。今までリビィが出来なかった事はなかったじゃないか。今回も最初は無理でも俺たちが支える。最終的には俺たちより上手く出来る様になってる。そうだろう。」
メルは超音波ビームを取得した時を思い出していた。
あの時もリビィは習得に人一倍以上時間をかけて努力したが、結果的にはリビィは誰よりも凄い練度のビームを獲得した。
子育ても最後にはリビィは上手くするとメルはリビィを信じていた。
「俺はな。自分を完全無欠な超人とは思っていない。生物には何処かしら長所と短所が存在する。俺にとっては子育てがそれなんだよ。」
リビィは自身の空気を常に読んでいる。
そして、その空気に書いてあるのである。自分には子育ては無理だと、子が可哀想だと読んだのである。
「そんな事ねぇよ。空気がなんだって言うんだ。それは絶対的なものではないだろう。」
「絶対的じゃないが、最も優れた参考対象だ。」
リビィはそう言って去って行った。
これ以上、この話をするつもりはない様だ。
「………リビィ。」
「あの人もその内子育てしますよ。」
メルには他の者たちがしている様な楽観視ができなかった。
リビィは意外と頑固なのだ。
それにリビィはわかっていない。産まれてくる子の前にお前を好きな者はどうなのかと、想いに答えられない理由がそんな理由だと可哀想だと思わないのかとメルは考えていた。




