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喰われた。

 よし、行くか。


 リビィは今までにない深い海溝の入り口を見ていつぶりかの未知への恐怖を抱いていた。

 そんな恐怖を飲み込んで気合を入れて潜り始めた。


 一気に水深千メートルを超え始めた辺りでリビィは此処が他の深海とは違う事に気がついた。


 マリンスノーが白くない。


 マリンスノーとは表層の微生物の糞や死骸などが混ざり合った固形状のものであり、光で照らしたら白く見えることからメルが命名したものである。

 リビィはマリンスノーを見た後に初めて雪が降っているのを見た為、空からマリンスノーが降っていると言うメルからしたら逆な感想を抱いたのである。


 それがこの深海では赤い。血のように真っ赤なのである。

 変色している。この深海千メートルを超えだしてから変わった。明確な線引きはないが、確実に何らかの力で変色しているのだ。

 その変色に何の意味があるのか分からないが、生物にも影響がある可能性がある。今のところ身体に変調はないがそれがいつ起こるかもわからない。

 身体の不調に注意して進まないといけない。


 水深二千から三千メートルの地点でまた、景色がガラッと変化した。


 今度は緑。

 ただ、食べている魚などは赤色だな。


 食べている餌で体色が変わった生物達、そしてマリンスノーの緑による深海とは思えない幻想的な景色だった。


 そこから深くなるにつれて色が増えていき一万メートルになるとカラフルな人工的な風景になってきていた。


 生物だけではなく此処まで来ると岩石などの無生物にも適用し出した。


 リビィには今のところ体色の変化など可笑しな点は一切なかった。

 それでも不安はあった。

 今まで感じた事がなかったが、身体が強制的に変化するのではないのかと言う不安である。

 でも、それも終わった。

 そんな些細な感情が一瞬にして無くなった。


「なっ!」


 リビィは気がつくと胃の中にいた。

 何かの気配を背後に感じた瞬間に喰われたのだ。


 一瞬しか見えなかったが、あんな巨体、どこに隠れていたんだ?いや、そもそも隠れていたのか?


 リビィは警戒を怠っていなかった。

 常にエコーロケーションで周りを探査して進んでいた。

 だから、ここまで無駄な争いを避けて力を温存する事が出来ていた。それでも一瞬反応することしか出来ないくらいの圧倒的な力の差があったのだ。


 あれが海神様か、それに準ずる者だろう。


 問題はあれが海神様ではなく、ただの眷属だった場合メル達に進めてもらっている計画を断念して強引な方法を取らなくてはいけなくなる。

 それだけはしたくなかった。


 ちっ!もう時間か。


 リビィの身体は胃液によって徐々に溶けてきていた。

 色々考えながら工夫して溶けない様にしようとしたが、その全てが無駄に終わった。


 ここまでだな。


 リビィの身体は完全に溶けた。


「不思議な味。」


 美味しかったですか?


「?!何でいるの?」


 リビィを食った謎の生物の頭上でリビィがいた。

 確実に消化して自身の栄養となった筈の生き物が自身の目の前にいる事が不思議だった。

 この何百年感じることがなかった。新鮮な驚きが心地良く謎の生物は上機嫌になった。


「どうやったの?確かに胃で消化したよ?」


 分身や入れ替わりじゃない。

 そんなのこの幾千年の中で満腹になるほど食べてきた。自信の胃と消化感が間違えるはずがない。

 世界一の食通としてのプライドがそんなミスをしないと言っていた。


 簡単ですよ。自分の中の一種が食われたけど、他は生きている。だから、死んでいない。


「へぇー、面白い能力だね。」


 リビィの能力は今まで食べた個体の進化種になれるというものだった。

 明らかにリビィでは通れない場所を潜り抜けたり、人型になったりなど様々な事を可能にしていたのがこの能力である。

 これを消費する事によって食から逃れる事ができるのである。

 ただし、食われた種は二度と使う事ができない。


「良い能力だね。大事にするんだよ。」


 ちょっと待てください。


 この場から去ろうとする生物をリビィは呼び止めた。


「何だい?僕の機嫌が変わらない内に帰った方身のためだよ。」


 その生物の目は二度目はないと言っていた。

 今度、この生物に喰われたら全て喰われて死ぬとリビィは直感した。

 それでもこの生物に聞かないといけない事がある。


 貴方が海神様ですか?


「そうだよ。皆んなは僕のことを海神という。昔は僕の個体名もあったけど忘れちゃった。」


 やっぱりとリビィは思った。

 海神は隠れていなかった。この海神自体が海そのものなんだとリビィは気がついた。

 だから、気が付かなかった。

 今、この場にいること自体が口の前にいる事とも胃の中にいる事とも同義だった。


「それにしても一瞬だとしても僕の食べる瞬間に僕の存在に気がついたのは将来有望だね。成長が楽しみだよ。」


 海神の舌舐めずりする姿に呑気泳いでいた深海の生物達は恐怖して四方八方に逃げ出した。

 今まで呑気だったのが嘘の様に恐怖に顔を歪ませて全速力で逃げていった。


「それで僕に聞きたい事って何?」


 これから来る争いに向けて戦力ともなる家畜が欲しいのです。


「ふーん、だから、何か良い生物がいないかと聞きに来たのか。」


 海神はうーんと唸りながら考えだした。

 そして、ある生物を提案した。


「なら、ジャックイカなんてどうかな?」


 ジャックイカ?


 初めて聞くイカだった。

 名前の空気感からも知らないとリビィの勘は言っていた。


「そのイカはね。此処から数百キロ離れた海域に棲んでいるイカでね。僕が食べたイカの中で現代に生きている中では一番賢く美味しいイカさ。必ず君も気にいるよ。」


 この食通海神が言うのだから。味は保証されたも同然だと考えたリビィはよだれが出てきていた。


「早速行くと良いよ。あぁ、それと言っておくけど今の君だと僕を一口味わう事も出来ないからやめといた方がいいよ。」


 海神はそう言うと今度こそ寝床に帰って行った。


 バレていたか。あぁ、残念。美味しそうなのにな。

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