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計算は合っています(向日葵15)

 リタは少し会わないうちに、背が伸びていた。ノースリーブのブラウスから覗く肌は、相変わらず抜けるように白い。どこか機嫌が悪そうなので理由を聞くと、留守の間、管理人の庭の手入れに不手際があったことが原因のようだった。

 

 三人は再会を祝して、セシルの出してくれたアイスティーで乾杯する。

「あ、ちゃんとアールグレイ。さすがイギリス」

 楠ノ瀬のはしゃぐ声に、セシルが満足げに頷く。


 三人は夏休みの話題で盛り上がった。リタはエジンバラの土産話を、徹はお盆に母の実家に帰ったことを話した。

「五十歳近いおばさんが『由紀ちゃ』なんだよ。カルチャーショックっていうか何ていうか」

「いいじゃん、そういうのって」

 楠ノ瀬が羨ましげな表情を見せる。


 普段は人をからかうことの多い楠ノ瀬だが、自分がいいと感じるものには心から共感を示す素直さもある。リタも楠ノ瀬と比較的波長が合うようだった。


「徹の母上はどんな人だ」

 リタの問いかけに、いや、母上なんて――と慌てて手を振ってから、徹はふと尋ねる。

「それより、リタのお母さんこそどんな人なんだ」

 リタの表情が、すっと柔らかくなった。


「母も一度日本に来ている。十五年前にここで学んだそうだ」

 思わぬ展開に、徹と楠ノ瀬は顔を見合わせた。

「参宮学園で? 凄い偶然じゃない!」

 楠ノ瀬の声も普段より高くなる。


(いや、これは偶然っていうよりもむしろ――)

「当時母は十八歳だったが、ナンバーワンの連になったと聞かされた」

「もしかしてリーたんのお母さんは今、三十三歳? 若いなあ」

 リタは誇らしげな表情を浮かべた。雀斑の僅かに浮いた頬に赤みが差す。


「母は参宮学園を卒業した直後に父と出会い、大恋愛の末に私を生んだそうだ」

「へえ、情熱的。リーたんもクールなようで、実はその血を色濃く引いちゃったりして」

 楠ノ瀬はしきりに徹に目配せしてくるが、徹は無視を決め込む。一方のリタは母親の話となると止まらなくなるらしく、次から次へとエピソードを披露し続ける。


 徹は、リタの意外な一面を見た気がした。

(やっぱり女の子はこの手の話で盛り上がるよな……あれ?)

 だが心のどこかで、何かが引っかかる。


(リタのお母さんが 十五年前に参宮学園を卒業してから結婚して……)

 激しく首を横に振る徹の後ろに、セシルが音もなく立った。


「計算は合っています」

「ひっつ」 

 またも考えていることを読まれた徹は、小さな悲鳴を漏らしてしまった。


「リタ様は、アナスタシア様とエドガー様の子です」

(いや、だって)

 セシルは、何を今更という顔で言葉を続けた。

「リタ様は、十三歳でいらっしゃいますから」

 思わず徹と楠ノ瀬の声が揃った。

「十三歳!」 


 その後、どんな話をしたのか徹は覚えていない。楠ノ瀬がリタを質問攻めにし、その一つ一つにリタが律儀に応え、時にセシルが咳払いでたしなめ――

 いつしか長い夏の日は暮れていた。


 徹たちは夕食の誘いを固辞して、リタの家を去った。


 考えてみると、リタは欧米人にしては然程大人っぽく感じなかった。外国では飛び級の制度もあると聞く。

(でも、十三歳かよ)

 徹は、自分を庇って高宮の前に仁王立ちになったリタの姿を思い出して、溜息をつく。

(いつかあの借りは返そう)

 徹は歩きながら両の拳に力を込めた。


 一つ前の交差点で楠ノ瀬と別れ、徹は自分の家に向かって一人歩いた。

 先程の夕立のせいか、夜風が肌に気持ちいい。

 少しだけ遠回りして帰ることにして――思いもよらぬ運命の悪戯が徹を待ち構えていた。


 高宮武と荻原有理が並んで歩いていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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