もう許して下さい(向日葵14)
夏休みもお盆も過ぎると、友人やら宿題やら、色々と学校のことが気になり始める。
リタから手紙が来たのは、そんな頃だった。八月二十日に帰る。そう書かれた文面を受け取ってカレンダーを見ると、既に八月二十一日だった。徹は電話をしてみることにした。
「徹か、元気か」
久しぶりのリタの声は相変わらずハスキーだったが、徹の電話を喜ぶ響きがあった。
「手紙ありがとう。エジンバラはどうだった?」
「久し振りに母と弟と会った。日本の夏は暑いな。エジンバラでは夜はカーディガンを羽織っていた」
ひとしきりイギリスの話で盛り上がったが、なおも話し足りない気分だった。リタも同様らしく、
「徹、今週中に一度家に来ないか」
そう誘ってきた。
「そのつもりで電話した。楠ノ瀬や桐嶋にも声を掛けてみるよ」
楠ノ瀬麻紀もすっかり退屈していたらしく、二つ返事で了解した。桐嶋とは連絡が取れず、楠ノ瀬に瓜谷の都合を尋ねたところ、夏季講習で勉強漬けとの返事が返ってきた。
結局、楠ノ瀬と二人でリタの家に行くことになった。
「イギリスにもスイカはあるのかなぁ」
「こういうのは、みんなで食べるに限るって」
当日、楠ノ瀬と相談してリタの家にスイカを持っていくことにした。
楠ノ瀬は、待ち合わせ場所にギンガムチェックのワンピースで来た。
「もしかして、あたしがいつもおへそ出してるとでも思ってたでしょ」
久し振りの会話も楠ノ瀬の先制攻撃からだった。
楠ノ瀬は夏休みに入って髪を少し短くしていた。ウエーブのかかった茶色の髪は、歩くたびに首の辺りで左右に揺れている。ふわふわして割と似合って――
「徹ちゃんこそ、その相変わらずぼさぼさの髪、何とかしたら?」
自分が髪を眺めていたことが、どうしてわかったのだろうか。
もはや、自分に内心の自由は無いのかもしれない。楠ノ瀬の前では変なことを考えるのはやめようと誓いながら、曖昧に返事をする。が、楠ノ瀬はなおも攻撃の手を緩めない。
「そういえば徹ちゃん日焼けしたよね、プール?」
徹は虚を突かれて、一瞬言葉に詰まった。楠ノ瀬の目が光る。
「女の子とでしょ?」
いつもの小悪魔の表情で徹を見る。特段美人ではないと思う。だが、濃く縁どられた長い睫毛で目を細められると、どうにも落ち着かない。小柄なくせに、出るところが出ているのも手強い。
「どうしてさ」
徹は精一杯リカバリーした。
「顔に書いてある」
「……えっと」
「っていうのは嘘」
「……」
「リーたんには黙っててあげるね」
徹は答えられないが、なおも楠ノ瀬は続ける。
「もちろん、有理ちゃんにもね」
「…………」
「あれぇ、有理ちゃんじゃない子と行ったんだぁ」
「……楠ノ瀬さん、もう許して下さい」
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