8:主人公と聖女様の思考が脳筋すぎる件
「攫えばいいんじゃないか?」
シリルと合流したわたしが彼に何かよいアイデアがないかと尋ねてみたところ、当たり前のようにそんなことを言うものだから、わたしは頭を抱えた。
信じていた『真の主人公』から、まさかのアメリアと全く同じ脳筋発言。
わたしの期待と信頼を返してほしい。
「ほら、ノネット様! やっぱり、シリル様もそうおっしゃるじゃないですか!」
「アメリア様はちょっと自重してください!」
我が意を得たりとばかりに身を乗り出すアメリアを、わたしは全力で手で制した。
「……まさか、アメリアも同じことを言ったのか?」
「はい!」
「なるほど……」
そう言って、シリルはうんうんと大きく頷いた。
「2対1だな……どうするノネット?」
「どうもしませんが!?」
したり顔で言うシリルに、わたしは全力でツッコミをいれた。
――そんな多数決がありますか!
シリルはそんなわたしを見てから、次にアメリアの方を見た。
アメリアが頷くと、シリルは苦笑して肩をすくめ、ふっと真剣な表情に戻った。
「悪い、冗談だ」
「全然笑えないよ! 悪ノリはやめてもらえませんかねぇ!?」
「申し訳ございません。ただ、どうか怒らないでください……ノネット様が落ち込んでおられたので、どうにか元気づけられないかなと、少々悪ふざけをしてしまいました」
申し訳なさそうに眉をハの字にするアメリアと、気まずそうに頭を掻くシリル。
「あ……」
二人の顔を交互に見て、わたしは小さく息を吐き出した。
「悪かったな、ノネット。君がこの世の終わりみたいな顔をしていたから……少しでも気が紛れればと思ったんだが、そういう場合じゃないよな」
「シリル……」
わたしが一人で思い悩んで、ガチガチに余裕をなくしていたから……二人はわざとふざけた提案をして、わたしの毒気を抜こうとしてくれたようだ。……だよね?
「……もう。二人とも、そういうのはもっと上手くやってよね!」
「ははっ、善処する」
「ご、ごめんなさいノネット様……」
「……ううん、ありがとうアメリア様、シリルも。おかげで変な力が抜けたよ」
わたしが素直に礼を言うと、シリルも安堵したように息をつき、今度こそ本当に真剣な表情へと切り替えた。
「で? 冗談はそこまでにして、何か現実的な名案はないかな、シリル?」
「おいおい、人に丸投げして勝手にハードルを上げるなよ……そうだな、『攫う』ってのは最終手段としてはありだと思うんだが」
「え、最終手段には入ってるんだ……」
「まず、普通にルナの実家を訪ねちゃダメなのか?」
「……」
シリルに言われて、わたしはぽかんと口を開けた。
「……普通に、訪ねる?」
「ああ。友達が急に退学して実家に帰ったんだ。心配して見に行くのは、別におかしなことじゃないだろ」
た、確かに……。
言われてみれば、その通りだ。
難しく考えすぎていたけれど、「友達が心配だから会いに行く」という一番シンプルで真っ当な方法がすっぽり抜け落ちていた。
「そうか……そうだよね。友達に会いに行くのに、特別な権利なんていらないんだ」
「ですがシリル様。私たちのような学生が突然訪ねて、すんなりルナ様に会わせてもらえるのでしょうか」
希望を見出したわたしとは対照的に、アメリアが不安そうに首を傾げる。
シリルも「そこなんだよな」と腕を組んで渋い顔をした。
「モントルヴァル卿がどういうおつもりで、ルナ様を連れ戻したのかはわかりません。お家の事情が絡んでいるのなら、ただの同級生が面会を求めても門前払いされるのではないでしょうか」
「……なるほど。貴族ってのは面倒なんだな」
「エレナ様の言う通り、会いに行くだけでも、大義名分は必要なのでしょうね」
きっとアメリアの推測は正しい。
『ノネット』も男爵位の貴族令嬢であるが、個人の名義で面会を申し込んだとしても、高位貴族の屋敷では門前払いを防ぐ盾にはならないだろう。それに、実家に迷惑が掛かる可能性もある。それは却下だ。
あるいは、聖女という肩書を持つアメリアならば無下にされないかもしれないが、それも確実ではないだろう。
では、どうすればルナに会えるのか。
「……個人の訪問で追い返されるなら、向こうが追い返せないような“公式な用事”を用意すればいいんじゃないか?」
「“公式な用事”?」
「ああ。たとえば、学園からの正式な届け物とか、どうしてもルナ本人に直接確認を取らなきゃいけない事務手続きとかな。そういう学園側の正当な理由なら、何も聞かずに無下に追い返すわけにはいかないだろう」
わたしは少し考えてから、首を横に振った。
「でも、シリル。公式な書類や事務手続きだとしても、普通は郵便のようなものを使うんじゃないかな? 遠く離れたご実家に、学生であるわたしたちがわざわざ直接届けに行くのは、いくらなんでも不自然だよ」
「それもそうか……」
「確かに、ノネット様の言う通りです。お屋敷の門番の方に『こちらで預かっておきます』と言われてしまえば、そこでおしまいですから……」
アメリアの言葉に、シリルも「なるほどな」と顎に手を当てた。
いくら公式な用事を装ったとしても、ルナ本人に直接手渡ししなければならないという強力な必然性がなければ、屋敷の中まで通してもらうことはできない。
「ただの事務手続きの使い走りじゃダメってことか。絶対にルナ本人と対面しなければならない、ものすごく重要で公式な用事……。そんな都合のいいもの、俺たちだけででっち上げられるわけがないな」
「うん。だから、やっぱり個人じゃ難しいよ……」
わたしが肩を落としかけると、シリルは不敵な笑みを浮かべた。
「いや。俺たちだけじゃ無理でも、適任の協力者がいれば別だろ」
「協力者?」
「ああ。モントルヴァル家が絶対に無視できないような完璧な大義名分を用意できて、しかも学園側の正式な使者として俺たちに強大な後ろ盾を与えてくれる人物だ」
シリルは自信ありげに、はっきりとその名を口にした。
「エレナの力を借りればいい」
つい数時間前のやり取りが脳裏に蘇る。
『ですがノネットさん。貴女が彼女の想いを知っていたとして……婚姻をひっくり返すだけの大義はありますの?』
少なくとも今の彼女は味方ではない。為政者としての正論を重んじる彼女が、わたしたちの感情論に付き合って協力を引き受けてくれるとは到底思えなかった。
「それは……難しいんじゃないかな」
「ノネット様の言う通りです。先ほどのエレナ様の様子を見ても、私たちに協力してくれるとは思えません」
「そうだろうな。あいつは感情論だけじゃ味方になってくれない」
シリルはアメリアの言葉を肯定しつつも、余裕の態度は崩さない。
「だったら、あいつが協力してくれる理屈を用意すればいい」
「理屈って……何か策でもあるの?」
「ああ。ちょっとな」
シリルは声を潜め、不敵に笑った。
詳しいことはわからないけれど、どうやらシリルにはあのエレナ様を動かすための確かな算段があるらしい。
「シリル、すごく悪い顔してるよ」
「……うっ」
わたしの言葉に、シリルは顔をしかめる。ちょっと傷ついたらしい。
「……で、どうするノネット? 行くか?」
「行くに決まってるよ! ……それに、ダメ押しになりそうな切り札なら、わたしもひとつ持ってるしね」
「切り札?」
「うん。エレナ様にそれなら話を聞く価値があるって思わせるだけの、ね」
詳細は語らずに自信だけを覗かせると、シリルは面白そうに「へえ」と目を細めた。
「そりゃ楽しみだ」
「ちょっとお二人とも!? 一体何の話をしているんですか……!?」
完全に置いてけぼりを食らってオロオロとするアメリアをよそに、わたしとシリルは笑い合った。
「よし、決まりだね。善は急げだよ、二人とも! 生徒会室に行こう!」
投稿遅くなり申し訳ございません。
次回も1週間くらいで投稿予定です。




