東部編6
「ナレル,山の奥の方へ行く.案内してくれ」
「知っている範囲ならできるけど…何せ未開の森がほとんど」
「俺の読みでは奴らのアジトは人の手の入った範囲.見知らぬ土地のそれも未開の山奥で,カビや毒蛇にやられたくないだろう」
「いくつか村があるから,そこに寄っていこう.何か分かるかもしれないし,怪我をしても大抵は助けてくれる」
そんなわけでレオンとナレルは川に沿って山に登っていった.
「ん?この道は?」
レオンは藁の敷き詰められた道らしきものを見つけた.
「ああ,その先には村は無いんだ.昔はあったけど火事で無くなってしまった」
「火事なら消した後にまた住めるんじゃないのか?」
「誰も生き残らなかった.幽霊が出ると恐れられてその跡地に住みたい人はいない」
「火事の原因は?」
「分かってない.原因は人為的なものなのか落雷や乾燥なんかの自然が原因なのか分かっていない.燃え尽きてしまっていて分からなかったんだ」
「なるほど,それじゃしょうがない」
「ところでレオン,アジトらしいものは見えるか?」
「いや,全く見えない.奥にはあるかもしれない」
突如前方から短槍が飛来する.ナレルは槍を避けて掴みつつ回転して,重心を前に移しつつ投げ返す.
「今のは何だったんだ?何か知っているかセロ?」
「いや,知らない人たちだ」
ナレルは手の平の汚れを払い,レオンは剣をしまう.
「狩猟用の槍みたいだ.あの茂みの向こうから飛んできた.次のを構えているかもしれない」
「いや,もう移動している」
「見えるのか?」
「背の低い男だ.追ってみよう」
レオンとナレルは男を追って森へと入った.素早い標的を追う.
「だめだ,見失った….奴と俺たちでは土地勘が違う」
「結構深部に入ってしまったな.この先に村があったはず.そっちに行こう」
2人は向きを変えて村へと向かった.2人の後ろに木の上から落ちた蛇が沼に沈んでいく.
村に入ると,村人たちが2人をジロジロと見て,ボソボソと何かを話している.
レオンは何かを見つけてスッと近づき,後ろから肩をトントンとする.
「はじめまして.ねえボク,俺たちを村長のところへ案内してくれないか?」
「…!」
「どうした?はじめましてじゃなかったかな?」
「あ,ああ…」
「オイお前!何をしている!?」
中年の男がレオンの腕を掴みあげる.
「誤解ですよ.道案内を頼んだだけです」
「怯えているじゃないか」
レオンは腕を引いて手を離す.
「知らない人に話しかけられて怖かったんでしょう」
「まあまあ,僕らは怪しいものじゃないですよ」
ナレルが仲裁をする.
「その子の代わりに俺が道案内をしよう.どこに行くんだ?」
「村長のいる場所」
「多忙だから会えない」
「そうか,どうしたものか….じゃあ一番の情報通は?」
「その広場に露店が見えるだろう?あれはザークから来た商人たちだから物知りだ」
「ありがとうおじさん.…ところで,この村の投げ槍が減ってないか?」
「何のことだ?」
「そうか,それならいいんだ.行こう相棒」
レオンとナレルは広場へ向かう.
「何だったんだ…?」
2人は名乗って商人と話をする.
「なるほど….それらしい建物は知りませんが…」
「ん?」
「ああ,ここじゃ何ですから今夜私たちの別荘でお話ししましょう」
「別荘があるのか?」
「そうだ!空き室がありますよ.宿屋よりもいくらか安く貸しましょうか?」
「今じゃ話せないのか?」
「無理ですね.危ない」
「タダで渡せる情報じゃないんだと.一晩借りよう」
「ご利用ありがとうございます」
「それじゃあ俺たちは用があるので,また後程」
2人は村の外へ向かう.
「まだ聞きたいことが…」
「買わないとだめと言われたら困る.それよりもすべきことがある」
村の外れ,羊の小屋がある.
「そこにいたか」
吹き抜けのある小屋の2階,セロが手に輪に通した木の板を持ち,足をぶらぶらさせている.下の羊たちは気にしていない.
見上げるレオンとナレルの近くに羊が寄って来る.
「おじさんたちはどうして俺を追って来る?」
「さっきまで怯えていたのが嘘のようだ」
「また攻撃されたら困るからな.それにおじさんじゃないぞ」
「なぜあんなことをした?」
「答える意義が見いだせない」
「言葉による説得か力づくでねじ伏せるか,決めるためだ」
「その言葉は俺より強いと言っているみたいだ」
「不幸だな,そこまで分かっていながら実力差は分からないというのは」
「まあ,別に話してあげてもいいよ.俺は意地を張るほど狭量じゃない」
「……」
「槍を投げたのは,力試しだ」
「ほう…」
「試しただけ.俺はまだまだだったようだ.ここにいてもこれ以上の上達は望めない」
「…迷惑な話だ」
「この世には多くの町がある.俺が生まれた場所は…なぜこんなにも退屈な場所だった?ここに生まれなければならなかった理由は?きっと理由なんて無かった.いずれあるべき場所へと導かれる運命にあるんだ」
「何…?」
「この星が宇宙のどこかに向かって落ちているように,俺は大きな力に引きずられて流れていく.しかし,星の上で生きるものに意志があるように,引きずられる運命の上にあっても俺は意志を保つのだ」
「誰の誘いだ?」
「察しがいい.やはり村の外に出るべきだ.外には君のような賢い人がいる.それでこそ張り合いもあるというもの.…彼の名はエスク.ああ,ちょうど来たよ」
レオンとナレルは後ろを振り返る.大男が小屋の方へ近づいてきた.
「彼が僕を連れ出してくれる.エスク!僕は約束通りここで待ってたよ」
「1人で,と言ったが?」
「彼らが偶然やってきたんだ」
「そうか.…….2人で話したい」
「仕方ない,行こう」
レオンとナレルはその場から離れた.
「セロ,いいか?この羊たちに火をつけて村に放つんだ.それでお前は外に出られる」
「何だと!?」
「聞かれたか!こいつらは殺す!」
エスクは小屋の壁を殴る.木造の壁が壊れ,反対側にいたレオンとナレルは横に散る.羊たちが逃げていく.
「ナレル,セロを止めてくれ.エスクの相手は俺がやる」
「分かった」
レオンは穴から小屋の中へ入る.
「邪魔はさせんぞ.ここを出たいと思っているのは本人の意志だ」
「本人の意志だと?関係ないね.子供が道を踏み外しそうになれば,それを止めるのが大人の役割だから」
「そうかい?じゃあ俺は子供の夢を守るぜ」
「耳障りのいいことを言う…それでは彼の未来は守れない.それに,自分の意志でやったと思わせて命令しているのはお前だ.後戻りできないように」
「なぜ助けようとする?お前は誰だ?」
「影映す道標,狩人レオンだ!」
エスクは地面を蹴って角材を浮かせ,それを蹴って天井を破壊して落とす.レオンは後ろの壁の穴から外へ出る.小屋が崩れる.瓦礫の中から腕が出てレオンの左足に伸びる.レオンは後ろに下がりつつ,剣で指を切りつける.指は刃に押されることはあっても切れずに地面をがっちりと掴み,エスクが飛び出す.レオンはエスクの正面から光線を放ち,エスクを消し飛ばした.霧が残る.
「レオン,こっちは捕まえたぞ」
ナレルがセロを掴みあげて連れてくる.
「悪いな,お前の乗ろうとした泥船は沈めてしまった.今度はもっといい船を探してくれ」
「……」
「力試しであんなことをやっている内は泥船くらいしか来ない.ナレル,羊を捕まえてくるぞ.そいつはもう離してやれ」
「いいのか?」
「もう終わったから」
「そうか」
ナレルはセロを離した.セロは戸惑って大人しくしている.レオンとナレルは歩き出す.
「ところでナレル,何匹いたか覚えているか?」
「34匹」
「よく覚えてたな」
「一組何匹か考える癖があるんでね.つい数えてしまう」
「役に立つのかその癖?」
「役に立っただろ,今!」
「ははっ,そうだな」
「ん?」
レオンとナレルの前に輪に繋がれた木の板が投げられた.羊のタグと同じ模様とその下に名前と生年月日が書いてある.
レオンは振り向かずに高く上げ,下ろした後に2人は小走りした.




