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運命の混紡者  作者: Ridge
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東部編5-2

「やれやれ,剣くらい抜いてほしいものだ」

 レオンはルードの前に滑り込み,右手で光る剣を構えつつ左手でルードを部屋の方へ押す.矢は刀身に掬い上げられ天井に刺さっている.

 ルードは部屋に戻り,レオンは前転して壁を蹴って部屋へ飛び込んだ.

「一体どこから…?」

「この廊下の突き当り,炎みたいなオブジェの影からだ」

「見えたのか?」

「目がいいんでね.弓は小型化されたもので地面に平行に撃っている.矢は直進していた.あのサイズであんな威力が出るのか….おまけにレーザーサイトなんて上等な物を使いやがって」

「ここから30メートルはある.不味い…」

「レオンの光線でやっつけちゃえよ」

「当てるのが困難だ.相手は鏡を使っていて体を乗り出さない.鏡の先に魔族特有の光を見た.ああ,お前たちでは見えない.仮に手を掠っても,奴を追放することはできない.鏡に当てるとしても,体に当たるとは限らない.奴の背後に回り込む.ルード,館内図を教えてくれ」

「回り込むんじゃ時間がかかる….その間に奴は仲間を殺すかもしれない」

「じゃ,どうする?手短に頼むぞ」

「俺が囮になる.相手が身を乗り出さないと撃てないくらい近づけばいい」

「1人じゃ狙い撃ちされるだろう?僕も行こう.レオン,君の光線が僕らに当たらないように,僕らは廊下の端から走っていく」

「危険だ」

「分かっている.でも,誰かがやらなければならないんだ」

「…分かった.信じよう」

「まだ名乗ってなかった,僕の名はナレル.短くない付き合いになりそうだ.よろしく」

 3人は扉を開け,椅子を投げた.椅子に矢が突き刺さり,廊下を滑っていく.ナレルとルードは走り出した.不規則なリズムで敵に近づく.敵は横に動き,ルードの正面に移動する.ルードは背を低くして走る.敵は立ち上がって矢を離す,かに思えたが体が硬直する.恐る恐る目線を奥へずらすと黒衣の男が構えている.男の手元で何か光ったかと思ったときには,体を光線が貫き,霧となって消えてかかっていた.直後,霧となって消えた.

「やった!」

 レオンは2人の元へと駆け寄る.

「奴をどうしたんだ?」

「魔界へと送り届けた.届くのは転生体だがな」

「何で固まってしまったんだ?」

「奴は珍しく警戒心が強い奴だった.だからこそ見張りを任されていたのかもしれない」

 レオンは弓を拾い上げて様々な方向から眺める.

「?」

「つまりこうさ,警戒心が高じてレオンに恐怖して硬直してしまった.それにしても,彼が見張りだったということは…」

「たった1人に見張りさせる以上は,ここは本拠地ではなさそうだ.しかし,見張りに人員を割く程度には重要な場所だろう.探索したい.ルード,案内してくれ」


 3人は階段を上がって4階へと上った.

「やはり誰もいない」

「そのまま上の階へ行こう」

 3人は5階へ上る.レオンは廊下に入ろうとした2人を制止する.

「待て,何か光線が出ている.センサーか何かだろう」

「何も見えないけど?」

「俺には見える.ここから先は俺1人で行く.そこで下から来る奴を見張っていてくれ」

 レオンはスキップしながら進んでいった.

「何やってんだあいつ?」

「彼は人間じゃないからね.何か見えるんだろう」

「1人で大丈夫か?」

「大丈夫じゃない.2人で見張ろう」

「…….…分かった」


「…アイロコ様,こちらでの作業は完了しました.暫時,そちらへ人員を送ります」

「了解した.こちらは作業場を拡張できたので人手が足らない.余計に怪しまれる前に戻ってこい」

「御意」

 扉が勢いよく開く. 

「へえ,通信設備があるのか.お前たちが人間の道具を使うとは意外だな.お前たちの指には小さすぎて使いづらそうだぜ」

「誰だお前は?」

「いいか,向こうの奴らも聞き逃さないようにスピーカーに近づいてよく聞け!俺は追放の光,狭間の闇からこの世界に差す瑞光,狩人レオンだ!」

「寝ぼけているのか貴様!」

「待て!」

「は…」

「お前が統領か?」

「さあ,どうだかな?狭間の世界…暗黒の奥底,光満ちる神々の園…お前は神人の1人か?」

「確かめたくば俺の前に出てくることだ」

「その必要はない.お前はここで死ぬ」

「随分と挑発的だな.俺に媚びておけば貴様の処置は甘くしてやったというのに」

「その台詞,そっくり返してやる」

「フン,なあ,もし…もしもの話だ…」

「…?」

「もうすでに,この場の手下は全滅していたとしたらどうする?」

「なん…だと…」

 レオンのいる部屋は,レオン以外誰もいない,僅かに霧が残っている.

「意味は分かったかな?」

「…フフ,はははっ!そいつらを全滅させたんだな?」

「仲間がやられて笑うなんてなあ,そいつに気を付けなよ周囲の諸君」

「奥の手を出す準備が整った!解錠,遠慮はいらん,暴れるがいいベージ!」

 建物が揺れる.

「下か…」

「急げ急げ.奴は下だぞ」

「チッ…」

 レオンは廊下の光線を放つ装置を止め,階段に向かう.ナレルとルードがいた.

「レオン,さっきの揺れは一体…?」

「なに,心配は要らない.その代わりといってはなんだが,あの部屋を調べてくれ.敵のどこかと交信している.あの部屋の敵は全滅させたが,罠にはくれぐれも注意してくれ」

「任せろ.敵本拠地の手がかりを見つけてみせる」

「あの部屋…まさか,いや,思い違いか….レオンも気をつけてな」

「無茶するなよ」

「お互いにな」

 レオンは階段を駆け下りていった.


 庭園で槍を持った兵士が怪物を取り囲んで突いている.

「駄目です!刃が通りません!」

 怪物は猫背で,くしゃくしゃの長い黒髪を地面に垂らし,髪の隙間から鋭い眼光が覗いている.

「槍を自分の正面に持っていくなよ,押し返されて腹に穴が開くぞ」

 刃物の動きと統率の取れた動きに警戒していた怪物は,これは脅威ではないと気づき,円陣を崩しにかかった.突いた槍を掴み,その持ち手の兵を浮かべあげ,反対側へと叩きつける.突如出現した光る刀身が槍を切断し,兵は遠くへ飛ばされ,槍の半身は空振りして地面にめり込む.黒衣の男が,円陣の中に立っていた.

「こいつがベージか….どうにも異質な雰囲気だ」

「これは一体…?」

「獣を狩るのは宮廷警護団の領分ではありません.この狩人レオンにお任せを」

 レオンは光線をベージに放つ.ベージは表皮を火傷し,煙が出る.

「何!どこから入ってきた?」

「獲物を見つける執念のなせる技ということです.あなた方は自身の職務,この離宮を守ることに全力でかかってください」

「断る.貴様の指図は受けん」

「俺には狩れないから代わりにやってあげると,そう言うのか?…では勝手にやらせてもらう.邪魔をすることは許さない」

 レオンは光る剣を振り回して地面を裂き,土を飛ばす.ベージは降りかかった土を払いのけてレオンを睨む.

「隊長…どうします?」

「奴が気を引いている.今は手を出すな,機を待て.距離を取って待機しろ」

「(あの光線で消えない….この光線に耐性のあるキメラか?)」

 ベージは周囲から槍を引っ張り,1本ずつ片手で持つ.逆さに持った槍を軽々と振り回し,レオンを叩き伏せようとする.レオンは刀身で槍を受け,斜めに滑らせて距離を詰める.ベージはその場で左回転して,もう片方の槍で横から薙ぎ払う.レオンは刀身を下に向け,飛び跳ねて薙ぎ払いをかわしつつ,槍と接触した刀身を軸にして左へ側転する.着地した瞬間に背を低くして前へ飛び込み,ベージの横に回って胸から腰へ斬る.が,固い皮膚は,僅かに捲れる程度.足の向きを90℃右に回し,迫りくる槍を斬り上げる.そして刀身を消し,光線を放ち,ベージの胸を光線が貫く.ベージは霧となって消えた.

「終わった.武器を下ろしてくれ」

「やったか!」

 霧が風で吹き飛ばされ,レオンの姿が顕わになる.

「礼を言う,狩人よ.俺たちだって勝てたかもしれない.しかし,犠牲者が出ないとは限らなかった.お前は,俺たちに力不足だから下がれと言えば済むことを,誇りを傷つけないように…」

「何のことかな?俺は獲物を横取りされたくなかっただけ.…ああ!いつの間にかここへ迷い込んでいた.連れもいるんだが,不法侵入をお許しいただけませんか?」

「…フフ,特別に許そう.一度だけだぞ.ただし,どうやって入ったか言うんだ.警備強化の参考にする」

「お答えできません.それではまた後ほど,出るときに会いに行きます」

 レオンは透明になってその場から離れた.5階へと戻る.

「どうだった?」

「手がかりは残されていない.全部記憶して記録に残さないのだろうか?」

「いや…どうやら記録は本部に残して,ここには無いみたいだ」

「通信先は分かるか?」

「方角は分かった.けどそれだけだ」

「まあ,それで良しとしよう.他に無いならここから出よう.いつまでもここにいるわけにはいかない.そうそう,話をつけてきたので堂々と帰れるぞ」

「顔を見せたのか,僕は隠させてもらうよ」

「ここでお別れだな.気をつけてな」

「さよなら.でもまた会える気がする」

「じゃあな.…色々と助かった,ありがとう」

 レオンとナレルは下に降りて,裏口から離宮の外に出た.裏口は堀の上の小さな橋だった.振り返ると小さな橋は沈んでいった.堀は再び完全に内外を遮断した.

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